『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳(韓国語→日本語)僕たち(私たち)の翼3

2022-04-02 23:25:44 | 翻訳

趣味の韓国語学習サークル「ハングル講座」で勉強している小説です。営利目的はありません。

著者:チョン・サングック(全商国)    生年月日:1940年3月24日

僕たちの翼 3

 「ハノ!」

 割れんばかりに強く僕の名前を呼びながら台所から走ってきた母は気が狂ったように僕の全身を掻きむしり始めた。平素の母に見られない発作だった。ひどくかきむしりながら背中を殴りつけた母がツホを抱きしめて、いきなりわっと泣き出した。

 納得が行かないこんな変なことが続いた。父は観光客を乗せて観光地に行ってきてお客さんからチップをもらった日は、必ずツホの玩具を買ってきたものだった。ツホはその玩具を大家の庭にあちこち並べて遊んだ。大家の子供たちが唾を垂らしてツホの周りを離れなかった。しかしツホはものすごく融通がきかなかった。大家の子供たちと一緒に全く遊ばないのは勿論、自分の玩具に手でも触れようものなら、地面に座り込んで地団駄踏みながら泣き続けた。さらに滑稽なことは、そんなツホに味方する母のふるまいだった。地面に座り込んでなくツホを抱きしめながら、ツホの玩具に手を触れた大家の子供たちを罵るのだった。

 「ツホのお母さん、本当にどうして叱るの?」

 大家の小母さんと母がしょっちゅう喧嘩した。

 「うちの子供たちに見ろと言わんばかりに、こんなに沢山玩具を買ってやったり、たくさん買ってやるのは子供の体が弱いからだとしても。これは一体全体、幼い子供でもあるまいし、何なの?」

 大家の小母さんが庭にいっぱいの玩具を指しながら口元に嘲笑を浮かべた。

 「どうして、私の子供に私のお金で買ってやって、何か間違っている?」

 「間違いというのじゃないけれど、全く目も当てられないからよ。」

 「目も当てられないって?」

 「うちの子供たちの教育上悪いから。お金持ちの家の子供もこんなにわがままに育てないよね。」

 「わかったわ。貸し間暮らしの分際でたくさんの玩具を、どうかしている、そう言うのね。引っ越す家のない人間がどんなに悲しいか!」

 そう愚痴を言って我を張った母がいつも後でツホを抱き寄せて号泣した。そのようにあきれたことをすると後では、「クリスチャンの奴らの心が良いというのは真っ赤な嘘だ。貧しく暮らす人を馬鹿にする奴らがどうして天国へ行くのだ・・・」

このように我を張っている母に向かって大家の小母さんがチェと舌打ちをする。

「この人、本当に気が狂ったのかしら?毎日呪術師(シャーマン)を訪ねまわったから鬼神がついたようね。」

「そうよ、私、気が狂ったの。このクリスチャン奴!」

「ツホのお母さん、本当に近頃、どうしたの?」

「どうしただって。わからなくてそういうの?私、気が狂った。自分の子供が死ぬというので、気が狂わない女がいるの?」

母が口から泡を吹きながら声を高めた。

「ツホのお母さん!」母と違って大家の小母さんの声は低い。本当に気の毒だというそんな顔で母を呼ぶ。

「ツホのお母さん、明日すぐ私と一緒に教会に行こうよ。私は本当にツホのお母さんが気の毒でたまらないよ。それでその呪術師(シャーマン)占い師の言葉をそのまま信じているの?」

 今度は母の側がすぐにしょげた顔になった。しばらくして母がため息をついて言った。

「勿論理解できないよね。そんなことは直接経験してみた人でなければ誰もわからないよね。私は怖いの。」

母がツホの服についた土を叩き落としながら身震いした。喧嘩は終わった。母も大家の小母さんもそれ以上話さなかった。彼らはその程度で和解したように普段に戻って行った。母のツホに対する非常識な愛がそのまま黙認されたわけだ。

母や父のツホに対するその理解しがたい偏愛は日が経つにつれてひどくなった。僕は勿論わかっていた。ツホが日に日に時間が流れていくにつれて痩せて間抜けな子供に変わっていくということを。僕は我慢できず問いただしたのだ。

「どうしてツホを病院に連れて行かないの?」

父に向って僕が言った。

「おい、お前、お母さんから何の話も聞いてなかったのかい?」

「どんな話?」

「ハノや!」お母さんが台所でご飯をつくっていたがやめて、慌てて部屋に飛び込んで来た。「お前、何も知らなければ黙っていなさい!どうしてお前がツホを病院に連れて行かなかったように思うの?」

 「じゃ、病院に行った話は?」

 「1回か2回行ったんじゃないということさ。病院に行くたびに、ツホは病気じゃないと言われたんだ。」

 僕はお母さんが嘘をついているとわかった。ツホはただの1度も病院に行ったことがなかったのだ。僕はとぼけて訊ねた。

 「何でもない子供がどうしてあんなに痩せて元気がないの?」

 「私にどうしてわかるの?」

 母がはぐらかした。父はもう布団を頭までかぶって背を向けて寝てしまった。

 彼らのその納得しがたいツホに対する偏愛の秘密が明らかになったのはタプシプリの伯母を通してだった。僕はウジョン伯母を訪ねたのだ。

 「伯母さん、その占い師がそんなに偉いの?」

 僕はわざとかまをかけた。

 「偉いなんて、誰が?」

 「僕は全部知っているよ。伯母さんがやたらにごまかす必要はないよ。」

その時50近い伯母の顔には当惑した表情がありありと現れた。

 「お母さんがその話をしてくれたかい?」

 「何の話を?」

 僕は急き立てた。幼い時から伯母は僕の話をよく聞いてくれた。僕は伯母から彼らの秘密のべとべとしたものの全体を探り出すつもりだったのだ。亡くなった祖母とそっくりな伯母が僕の催促に耐え切れず口を開いた。

 「これはあんたも知っていなければならないことだと思うけれど。」

 50に近い伯母は14歳の甥に彼らが隠してきたそのべとべとした秘密の全体を打ち明け始めた。

 「あんたの弟、生きて数か月、それ以上は生きられない。」

 伯母が聞かせてくれた話の核心はツホがわずかしか生きられないだろうということだった。実にとんでもない話だった。災いの原因は砂利採取場で砂利を載せて運んでいて事故を起こした時からだった。いわば母は父がそんな事故を起こすだろうと前もって知っていたのだ。母がそのように訪ねまわった占い師たちの占いがそう出た。母が尋ねて行った占い師たちは一様に父の運勢が良くないと言った。祖母がやめさせ制した軍隊にどうしても志願して入ったことやら、軍隊で運転事故を起こし人を殺したこと。そして先祖代々伝えてきた田畑を売ってしまったことから、今までソウルに上京してきてうまくいかなかったいろいろなことが、全部占い師が言ったとおりだったのだ。勿論母は占い師の指図のとおりその厄払いというものをせっせと行った。しかし、家にこもる邪気があまりにも大きく母の真心が通じなかったのだ。母と伯母は家のその邪気を抑え込んでくれるある力を捜していた。しかし、ある占い師は何代かの祖父の墓の場所を間違って建てたから墓を移築して祭祀をするように耳打ちすることもあったし、ある占い師は毛抜きで取りだすように、家を出て客死した祖父の怨霊を持ち出すこともあった。しかし誰もそんな厄を払うほど鋭い方法を出すことはできなかった。

 「それであんたのお母さんがその占い師にソウルでまた会ったんだ。」

 伯母が言うその占い師とは、昔僕たちが田舎に住んでいる時祖母がお得意さんの腕のいい人だった。祖母がソウルに上京した時、その占い師にまた会って何か聞いた後からツホを憎み始めたのだ。そして祖母が臨終の直前までツホを見舞いに来させなかったことを思い出した。

 母がその占い師に再び会ったのは父が事故を起こして廃人のように間の抜けた顔で部屋の隅に引きこもった何か月も前。食べて生きるために服の包みを持って回っている時だった。勿論母がその祖母のお得意さんの占い師を覚えていた。その占い師も同様に母を覚えていた。そして、昔の田舎の我が家の事情を見通して知っていた。母がその占い師を捕まえて取りすがった。

 あの日あの時生まれた坊や、大きくなったかい?占い師がそう訊ねた。大きくなったと母が答えた。そうだろうね!占い師がとぼけた。母が1か月商売したお金を見料として置いた。

 問題はツホだった。ツホが邪だということだった。ある家庭で妖気が立ち込めている人が二人いたらあまり良くないという話だった。孫が珍しい家であるほどそういうことがありふれていると言った。

 「あんたのお父さんとツホがまさに相克なのよ!」

 伯母が言った。

 「だから、厄払いをすればいいのよ。わかる?」

 僕が厄払いの方法を訪ねると伯母は首を横に振った。

 「別な方法はないそうだ。二人のうち一人が死ぬしかない・・・」 

その言葉を容易く言い切る伯母の顔に脂汗が光っていた。

 「それでツホが死ぬだろうというの?」

 僕は自分でも気が付かないうちに大声を出した。伯母が僕の口を塞ぎながら言った。

 「その占い師の言葉ではツホは短命に生れたのだ。その代わり一生涯生きた人のように必死に食べて死ぬだろうという話だった。」

 数か月前、父の運転事故の時ツホが道の真ん中に現れたのだ。父の軍隊時代の事故のようにいきなり子供が一人現れて両手をぱっと上げたのだ。その子供を避けようとしてハンドルを切った瞬間、事故が起きたという話だった。

 「お父さんもツホが死ぬということを知っているよ。」

 「あんたのお父さんには話をしないわけにはいかなかったんだよ。しかし、ツホがお前のお父さんの代わりに死ぬとは話せるかい?それでお前のお母さんとツホが重い病気にかかったと嘘をついたんだ。」

 「お父さんがそれを信じるだろうか?」

 「信じても信じなくてもどうしようというのかい?」

 僕は心の中で何かが崩れ落ちるようだった。それは父に対する失望だった。自分が死んでも父だけはうちの隅々に浸み込んだその迷信の臭いとは距離が遠い人だと考えていたからだ。何か確実にはわからないけれども、家のなかのその落ち着かなくはっきりしない、ある力と立ち向かって最後まで戦うだろうと期待したのだ。僕は数日ぶりに帰宅するたびにツホの玩具を抱えて買ってくるその理由がわかると思った。迷信。僕は口の中で呻くように呟いた。

 「私があんたのお父さんやお母さんにそう言った。どうせ死ぬ子供、死んだ後に恨みがないように良くしてやりなさいって。」

 「ツホが死んだ後、生きている人も心が少し辛くてこのように一生懸命尽くすんだね?」

 僕はひねくれた意地悪な気持ちで言い放たなくては耐えられなかった。

 彼らの考えとは違ってツホはさらに長く持ちこたえた。目は一層精気が失せ手足はねじれていたけれど、まだ簡単に死にそうではなかった。よく食べ良くされよく遊んだ。玩具が大家の庭いっぱいになった。今は大家の子供たちがその玩具を勝手に持って遊んでもツホは泣かなかった。

 ツホの就学通知書が出てきた。

 「体が弱くてもこいつは勉強は良くするだろう。」

 父が言った。母が首を大きく横に振りながら、返事をした。

 「無駄に子供に苦労させることはないし、家で気楽に遊ばせてはどう?」

 「お前は本当に気が狂っているね。」

父が声を高めた。ツホの問題をめぐって彼らが話す時、父はいつもこのように母を責めた。父の心の中で争いが起こっているという意味だ。父が占い師と母の言葉を簡単に受け入れていないでいることは確かだった。しかし、父はお金さえあればツホのために何かしたいと苛立った。


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