『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳(韓国語→日本語)  不便なコンビニ(クレーマーの中のクレーマー)2-2

2024-01-25 20:59:52 | 翻訳

韓国語学習のための翻訳で営利目的はありません。

著者 : キム・ホヨン

(2)

 晩秋も終わりになった夕方、社長が一人の男と入ってきた時シヒョンはぽかんと口が開いてしまった。彼女は男の人相に髭が占める割合がそんなに大きいことを初めて実感した。男も女も「ヘアスタイル」の効果だとわかっていたが、もじゃもじゃして雑草のようだった口髭とあごひげをすっきり整理したドッコさんの顔を見た時、いつも避けたかったホームレスではない、まともな親戚の叔父を思い浮かべざるを得なかった。更に、頭髪も短く切って下水で洗ったようなジャンパーと綿のズボンの代わりに袖幅の広いシャツにジーパンを身に着けたドッコさんは完全に別の人に見えた。目が少し小さいことはあっても、格好いい鼻筋と髭がなくなってさっぱりした口元に、強靭に見える顎の線には男性美まで感じられた。更に、広い肩と背中は頼もしさを増して中腰の姿勢もまっすぐ立つと背が一層高く見えた。

 すっかり変わったドッコさんを連れてきた社長はまるで自分が作ったロボットでも紹介するように満足した表情でシヒョンに彼が夜間アルバイトを担当すると言った。うあ。しばらくドッコさんの変身に良い印象を受けていたシヒョンの心に黒雲が殺到したが、それにもまして社長はドッコさんの売り場業務の教育をシヒョンに任せると提案するではないか。オーマイゴッド!社長の提案はすなわち指示ではないか。

 シヒョンは、店員教育は何といっても教育者としての経験が豊富な社長が一層上手だと思いますと、自分なりに言い逃れたが、すぐ黙殺された。レジの使い方や接客すべてに若いシヒョンがセンスあることがその理由で、社長は社長なりに夜間に物品を受け取ることや売り場の製品陳列を教えるつもりだと言った。シヒョンはやむを得ずうなずいた。今、自分と社長がドッコさんをこのコンビニの人手として養成しなければならなかった。空白が生まれた夜間アルバイトをいつまでも社長が引き受けることはできない事情があるからだ。

 事実、シヒョンは残念ながら義理がかたかったり何かをよく整理するといった人ではなかった。彼女はよく言う「アウトサイダー」に近く、友達も多くなかった。平凡に大学まで卒業して、自分の性格に一番よく合う仕事が公務員のような平凡な仕事ではないかと思って、9級公務員試験の準備をするようになったのだ。問題は今周辺の皆が公務員試験の準備をするということだった。シヒョンが見ると十分に多様な人生と華麗なスペック(経歴・資格)をもった友達達が安全だという理由で公務員試験に挑戦していて、そのために、競争率は話にもならないぐらい高くなっていた。あなた達は十分に挑戦的であって「インサイダー」で海外研修のようなものも受けてきたじゃない?そんなあなた達はもっと時代を先取りする分野の仕事を追求してもいいと思いますが、なぜ皆があきあきするのが明らかな公務員になろうと列をなすのか?それがシヒョンの不満であり、悩みであった。

 反面、ここのヨム女史のコンビニはシヒョンに公務員生活の予備体験させてくれるところでもあった。大学を卒業して就職に失敗した後、公務員試験を準備しながらいろいろアルバイトを転々とした末に、ここに落ち着くようになって、ずっと働いていた。午前ノリャンチンで授業を聞いて、地下鉄でナムヨン駅に来て午後から晩までここで働いた後、サダン洞の家に帰る日常は彼女には慣れた生活になった。母はなぜ町のコンビニで働かず青坡洞まで行くのかと言うけれど、町のコンビニで働いて知り合いの子供達や家族に出くわすほどうんざりすることはない。その上、青坡洞は実は過去に片思いしていた男友達が住んでいた町だった。そいつについて2回ほど来て見ていた。ワッフルハウスという所でとても美味しいイチゴ氷を食べながら、しばらくデートのようなことをすることもあったが・・・そいつはだしぬけにオーストラリアへワーキングホリディーに発ち、何年もすぎた今まで戻らずにいる。多分体の大きいオーストラリアの女との暮らしを準備したり、カンガルーに餌を与えるアルバイトをしたり、子カンガルーと恋に落ちたかもしれなかった。

 とにかく青坡洞の路地の片隅のコンビニが今シヒョンには一番落ち着く空間だ。公務員試験に合格する前まで彼女は絶対ここを離れるつもりがない。何よりも公務員試験と一緒に準備していたワーキングホリディーが霧散してしまい、なお一層このコンビニの地縛霊になろうと決心した彼女だった。片思いだった奴がオーストラリアにワーキングホリディーに出発し、消息不明になってからシヒョンも日本にワーキングホリディー行こうと決心した。日本語科を卒業して日本アニメオタクの彼女としては、当然の選択の一つだったけれど、今日明日と延ばしていたことは事実だったけれど・・・畜生、今年6月日本との貿易戦争が始まって日韓関係が悪化の一途に陥るや、彼女のプランBは不可能な夢になってしまった。公務員になったら季節ごと週末ごと日本の小都市旅行に出かけようといった夢も約束できないことになってしまった。

 シヒョンは個人の夢が外交問題で崩れる経験をすると、ようやく自分が社会の一員だと感じた。彼女はろうそくの灯を持ったり、サッカーの応援しようと広場に出かける人々とは自分が全く違う分類だと感じた。彼女の人生は部屋の片隅のモニターの中にあった。ネットフリックスやインターネットだけでも十分に世間と接して人生をたのしむことができ、自分だけの温室のコンビニで気楽だった。それでだろうか?時には公務員になることよりコンビニのアルバイトの生活の継続を望むのかもしれないと考えたりした。頑張って公務員になっても結局少し大きなコンビニではないだろうか?国民の便宜をはかる空間でまた別のクレーマーに会う人生・・・。それだから今慣れた空間はシヒョンにとって必ず守らなければならない根城だった。

 シヒョンはここを守るためにでもホームレスのドッコさんの変身を助けなければならなかった。彼に廃棄弁当を取りそろえてやる時は善行をするつもりで気分がよかった。しかし、正式に彼を教育して意思疎通をするのはかなり負担なことに違いなかった。彼女はまずどもるドッコさんの口調に慣れなければならなかった。鈍い彼の挙動にも適応しなければならない。何よりも洗ってきたとは言うけれど、相変わらずかすかに漂うホームレスの臭いを我慢しなければならなかった。

 ドッコさんは熱心にシヒョンが教えてやる内容を受け入れた。どこから持ってきたものかわからない古いノートを取り出してボールペンをぬぐって接客手順を書いて消化し、陳列台の整理規則を絵まで描いて筆記した。その努力をほめてシヒョンは忍耐力をもって一つ一つ教えてやった。そうしてお客様が来ると、挨拶してもたもたするドッコさんを肘で突いた。そうするとドッコさんは「ど、どう・・・ぞ。」と言葉を濁して、お客様はそれを挨拶ではなく彼女とドッコさんが会話していると感じた。彼女はため息をついてレジへ彼を連れて入った。

 レジに並んで立ったまま、シヒョンは商品の計算する過程をお手本としてゆっくり繰り返した。ドッコさんは横に立ったまま、その姿をじっと見つめた。しかし、まだ一人でレジに立てない水準だった。

 「今晩は社長さんが一緒に計算してくれるけれど明日からは一人です。よく覚えてください。」

 「わ、わかります。ところで・・・その二つ一緒に計算するのは・・・。」

 「無条件にコンピューターを信じれば大丈夫です。全部入力されてるんですよ。入ってきた商品に従ってアップデイトがそのつどされます。そのままバーコード読み取り機に当てて写せばいいです。」

 「そのまま、当てて、写す。」

 「何を写しますか?」

 「し、商品です。」

 「それ・・・線がたくさん・・・バッコードですか?」

 「バーコードです。だからバーコードの線に当ててこれをぴったり写せば終わり。OK?」

 「オ、オーケー。」

 シヒョンは頭が熱くなったけれど、自分より20歳は年上に見える小父さんにあれこれ指示して教えるのが満足でもあった。何よりもコンビニの中のテーブルで友達とおしゃべりしながらもそのつどシヒョンの教育を観察している社長の視線に満足した。シヒョンは社長が好きだった。学生時代社長のような先生に会っていれば、アニメオタクではなく、歴史オタクになっていたかもしれなかった。

 とにかく、この訥弁でやつれた、ホームレスを卒業したばかりのこの小父さんをレジに一人で立たせなければならない。シヒョンはいきなりノートにバーコードを描いているドッコさんに厳しい視線を投げかけた。


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