ヤマトタケルの夢 

―三代目市川猿之助丈の創る世界との邂逅―
★歌舞伎・スーパー歌舞伎・その他の舞台★

第四回亀治郎の会 観劇記2

2005-08-13 22:14:08 | 歌舞伎
【神霊矢口渡】
たぶん、本興行では私自身は一度も観たことのない演目ですが、
(記憶に相違なければ)
娘の造型や、お家再興を計る落人の道行、情よりも欲の勝る父親、
霊力、などなど、歌舞伎のお芝居的には馴染みのある設定多々。

義峯を口説きにかかるお舟なんかは、お里ちゃん(笑)とも
ちょっとかぶって見えたり(実際類似の科白もあるし)、
囲みを解くために太鼓を命がけで叩くといったあたりも
三人吉三のお嬢や八百屋お七の趣向を思い出させたり。
あ~歌舞伎だなぁ・・・と思わせる舞台でした。

しかし、頓兵衛にはビックリ。
フツー?誤って娘を斬った段階で、因果が報いた~とか
なんとか言って(笑)、多少改心するような展開も
よくあるパターンと予測していたのですが、
全然、改心どころか娘への憐憫もないんだもんね(ーー;)
ある意味そこまで、自身の欲望に忠実なのはご立派。
迷いのない人生なんですねー(なのか?(~_~;))
段四郎さんの芝居が大きくて迫力で、怖いくらいの
見事な悪っぷりでした!
下手の草陰から、のそっと出てきた瞬間の異様な存在感、
花道の引っ込みなど、劇場の空気を支配されてましたね。

亀ちゃんは実年齢がもっと若い頃より、ここのところの方が、
娘が無理なく自然に見えるのは、おこがましい言い方だけど、
芸の進境でしょうか。
これまでの会では「熱演」が勝ちすぎて、ともすれば、
役の陰影が霞んでしまうような処もなきにしもあらず、
といった感もありましたが、今回のお舟はとても良い加減でした。

【船弁慶】
人間国宝な方も含め、何度か観ている演目ですが、どうもあまり
入り込めない感じで、過去、観劇中「落ちて」いたこともしばしば(失礼~)
当日会った友人も「これは、好きな役者さんが踊っている時じゃないと
結構辛いよね~。」と言っていて・・・(特に前段)

本日葵太夫さんのサイト
ただいま(今月のお役)の8月13日の記事を拝読し

>「飽きさせないということが難しい演目」だなと思いました、

の記述に、思わずモニターに向かい頷いてしまいました。
まあ、私のような素人が、単にあまり理解できず飽きちゃう、
ということではなく、もっと見巧者を惹きつける魅力についての
高度な次元でのご発言なのでしょうけれど。

静と義経の物語は他に多くの印象的なお芝居があるため
どうしても、前段の静の舞の抑制された表現から
パッションを得るのが難しい。
(これは見る側の問題なのかもしれないけれど。)
また、演者にとっても、季節や景色、哀切などを
一見淡々と見える所作で、だからこそ、
肉体のわずかな遣いかたひとつで表現していく難しさ
顔や手の微妙な角度・位置の違いで表出していく技術と
(例えば、能面が修羅にも歓喜の表情にも見えるのと同様)
曲に負けない大胆さが必要なのかな~と・・・

うって変わって後ジテ。
花道からの出で知盛の後ろ姿を目撃したとき
相変わらず、立役の後姿は幼く見えてしまうなぁ~などと
瞬間思ったのですが、おどろおどろしい隈取と相反して、
ふわ~と一回り小さく軽く見えるあたりが、
逆に、異形の雰囲気を醸し出し、波間にす~っと現れ
歩くというより、重力を持たない肉体が海上をすべって行く感じ。
振りは大きくても所作板を踏む音を立てずに動くあたりとの
緩急のつけ方は、素晴らしかったです。

キレの良さや、所作の美しさ確かさは
本領発揮といったところですが
いかんせん舞台が狭く、物理的にちょっと可哀相だった部分も。
最後の花道の引っ込み、長刀をかけての渦巻きの入りは、
もう少し距離があれば、更に迫力のある見せ場となったでしょう。
(と、思ったが大劇場とそんなに尺は変わらないのですね。
すごく、短く見えたのですが。国立劇場設備概要
傅次郎さんの太鼓、福原寛さんの笛との拮抗も壮絶でしたね。
あっ、忘れてはならない、ツケも大迫力!!

傳左衛門社中の皆様には、いろいろな舞台でお目にというか
お耳にかかっておりますが、今年一月、
お母様の田中佐太郎氏のドキュメント鼓の家を拝見し、
非常に感銘を受けました。長く厳しい訓練を受け芸を継承し、
そして、また自身の中に受け継いだものを
余すところなく子供たちへ、次代へと繋いでいく。
女性であるがゆえ、歌舞伎や能の舞台の前面に立つこともなく、
ある意味無償で伝統に奉仕するその生き様に、心を打たれました。
佐太郎氏の生の演奏を是非拝聴したいと、以来、願っています。

共演者、協力者に恵まれ、そして、盛会で亀ちゃん幸せですね~。
前回もそうですが、プログラム等で何か「悲壮な決意」的なコメントを
見かけるけれど、恵まれた航海をしていると思いますよ~。
でも、彼的には、すでに「遠くへ来てしまった」
自身への寂寥を秘めているのかな?少年時代を過ぎ、
青春も終わる(かもしれない)けれど、
人生の朱夏―燃える熱い夏―が待っていますよ

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