梓林太郎の『八ヶ岳石の血痕』を読んだ。梓林太郎は自ら相当の登山経験を持ち、山岳ミステリーを得意にしている作家である。山好きの私は梓の書く山の場面が好きで、彼の作品をかなり読んできた。
『八ヶ岳石の血痕』の事件が起こる場所は、八ヶ岳の連山の中にある硫黄岳である。八ヶ岳という名前が八つの山を意味しないで「たくさんの峰」というようないみであることをどこかで読んだ。同じようなことが青森県の八甲田山でも言われる。八甲田山いうが、八甲田という山はなくやはりたくさんの峰が連なるという意味だったと思う。今回の舞台回しは道原伝三郎刑事である。梓作品の中で、私は道原伝三郎のファンである。
諏訪市内で起こったひき逃げ事件の被害者の夫と、八ヶ岳山中で死体となって発見されたカメラマンとのかかわりが道原の手で解明されていく。ここではストーリーを解説する必要はないのだが、梓林太郎が作り出した主人公の人情味あふれる捜査、働きについ引き込まれて読んでしまうのである。