フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 先週に続いて、東日本大震災関連のドラマのことを書きます。
 先週は過去に見たドラマのことを書きました。今回は新しい作品のことを書きます。今回新しく放送されたのは次の3作品でした。

あなたのそばで明日が笑う』(NHK、3月6日)
ペペロンチーノ』(NHK衛星、3月6日)
星影のワルツ』(NHK、3月7日)

 最初の作品『あなたのそばで明日が笑う』は地上波プライムタイムの放送ですし、綾瀬はるかの主演でもあり、NHKが3作品でもっとも力を入れているように感じました。地震で夫を亡くした女性(綾瀬はるか)が10年後に夫の営んでいた書店を再建しようとする話です。震災被害を克服しようとする努力と、しかしそれは容易にはできないことの困難さを描いた良作だと思いました。しかし、書店を再建を手伝うプランナー(池松壮亮)との関係が男女の愛情に発展していきそうなところは、単発の作品の短い時間では十分に描くことができていないようで、私にはやや物足りなく感じました。
 それに対して、『ペペロンチーノ』はポイントを絞っていたのが、単発作品として潔かったと感じます。料理人(草彅剛)が震災後にアルコール中毒になるものの、そこから立ち直ってイタリア料理店を再開し、震災から10年後に親しい人だけで会食をする話。一つ凝った仕掛けがなされていますが、それはここには書きません。主人公が酒浸りの生活から立ち直るきっかけとなる医師との出会いや、人に喜ばれることで料理への気持ちが取り戻すエピソードなど、丁寧な描写の積み重ねがよくできた作品になっていると思いました。
 最後の『星影のワルツ』は珍しい作品でした。震災で流された家の屋根に乗り、そのまま3日間漂流した男性の実話をもとにしたドラマ。正直言って作品としての見どころはあまり感じませんでした。ただ、10年経ってあらためて考えてみると、先週書いた『時は立ちどまらない』以外は、ほとんどが震災後何年も経ってからの人びとことを描いています。震災の記憶と立ち直りを描いているといってもいいでしょう。そう考えてみると、震災直後を描いた『時は立ちどまらない』は希有な作品です。この『星影のワルツ』は、震災直後の漂流というその時点の一面を描いているということで、東日本大震災を描いたテレビドラマというジャンルの中で異彩を放っているといえます。

 先週も書いたように、東日本大震災という未曾有の大災害を描くのはドキュメンタリーの役割で、フィクションが迂闊に手を出せる課題ではない、という考え方もあります。何を描いても実話には勝てない、フィクションでは嘘くさい、軽薄に見えてしまう、という意見はあるでしょう。その一方で、『時は立ちどまらない』にはフィクションでしか描けないものがあったと思います。テレビドラマ研究者として、そのようなフィクションの役割を今後も考えて続けていきたいと思っています。

※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。




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