フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 4~6月期のテレビドラマ、いわゆる春ドラマが続々と始まっています。今週から、恒例のテレビドラマ批評(勝手な感想)を書いていきたいと思います。まずはプライムタイムのドラマからです。

『くるり~誰が私と恋をした?』(TBS系、火曜22時)

 24歳のOL緒方まこと(生見愛瑠)が事故で記憶喪失になり、持ち物には男性ものの指輪が…という話。まことの周囲にあらわれる3人の男性との関係をめぐる「ラブコメミステリー」だそうです。あらかじめ知らされていた番組情報から、もっと軽快なコメディ色の作品かと思いきや、実際にはもう少し重いところのある作品でした。記憶を失った人間が自分のことを知っていくごとに、「そんな自分でいいのだろうか」と、自分で自分を批判的に見ていきます。そんなところから、古くからある文学理論「異化」というのを思い出しました。「異化」とは、当たり前のことをあらためて見つめ直してみる、ということです。文学のものの見方にはこの「異化」が用いられていることが多々あります。単なるラブコメではなく、もっと深いことを考えそうになりました。

『366日』(フジテレビ系、月曜21時)

 高校時代に好き同士だった同級生の二人(広瀬アリス、真栄田郷敦)が30歳をすぎて再会し、恋する話。それ自体はありふれた設定ですが、初回最後に水野(真栄田)に大きな事故が起きます。「再会後、悲劇が襲い、意識不明になってしまう」という情報が先に出ていて、私も知っていたのでいいとしても、知らなかったら、あまりの急展開に仰天でしょう。「過酷な試練を乗り越えようとする壮大な愛の物語」という情報も出ているので、今後を見守りたいと思いますが、「過酷な試練を乗り越える」ってどういうことなんでしょうか。そこが気になります。

『Re:リベンジ』(フジテレビ系、木曜22時)

 「巨大病院」「野心」「復讐心」「欲望」「権力争い」…とくれば、誰でも『白い巨塔』を思い出します。韓国ドラマっぽいともいえます。しかし、『白い巨塔』ほどの名作、有名作を誰でも知っているだけに、ここから新たな「巨大病院権力もの」を成功させるのはなかなかたいへんかもしれません。それでもあえて挑んだ制作陣には敬意を表します。初回を見る限り、なんだかすごいものものしい感じはするのですが、まだよくわからないことが多すぎて、面白いのか面白くないのか、判断がつかないという感想でした。本質的なことがわかる前に脱落する人が多く出ないか、老婆心ながら少し心配です。

『Destiny』(テレビ朝日系、火曜21時)

 大学時代の仲良し男女5人に、ある悲劇が起きます。それから12年経ち、検事になったヒロイン(石原さとみ)の前に、かつての友人があらわれ、そこから再び過去に向き合うことになる…という設定です。「石原さとみ3年ぶりのドラマ復帰作」「初の検事役で新たな時代のヒロインへ!」「20年の時をかけるサスペンス&ラブストーリー」といった文言が公式HPに並びます。過去の事件の真相への興味はわいてきますが、正直いって演出に違和感がありすぎでした。12年前の大学生を演じる30代半ば~後半の俳優さんたちに、そんな若者のノリをさせるなんて。さらには12年後になった途端に流れるミュージカル風の音楽(椎名林檎?)がドラマの内容に合っていません。すみませんが、ついていけない感じがして、なんだか引いてしまいました。

『95』(テレビ東京系、月曜23時)

 これはプライムタイム作品ではないのですが、既に見たので書き加えます。
『Re:リベンジ』のものものしさ、『Destiny』の違和感ある演出と対照的に、私はこの『95』に何か言葉にできない期待感を持ちました。「1995年の渋谷をがむしゃらに駆け抜けた高校生たちの熱き青春群像劇」との謳い文句。『Destiny』で違和感あった30代俳優の大学生演技をさらにこえて、中川大志や関口メンディーの高校生役も、この際なので許してしまいましょう。言ってみれば、『太陽にほえろ!』の初回や『池袋ウエストゲートパーク』を見たときのような胸騒ぎを覚え、「青春の彷徨」といった古くさい言葉が頭をよぎるような初回でした。この期待は、今後大はずれに終わるかもしれません。それでも、描かれる若者たちの「がむしゃら」さに、ひさびさにドラマに期待して見てみようか、と思う初回でした。

※このブログはできるだけ週1回(なるべく日曜)の更新を心がけています。




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