フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 湯河原で螢を見ました。
 湯河原へは何度も行っているのですが、この季節に行って螢を見るのは初めてです。それも当然で、6月というのは大学がとても忙しい時期で、通常は出かけるのはなかなか困難です。
 しかし、何度も行っている湯河原で螢が見られるというので、今年はかなり無理をして、週末に湯河原に出かけてきました。期待通りに螢がたくさん見られて、無理してでも行ったかいがありました。
          
 螢に関しては、以前にも書いたことがあります。(→
「螢(ほたる)」
 その時にも書きましたが、私は子どもの頃に螢を見た記憶がありません。両親の話によれば、子どもの頃に見たことはあったはずなのですが、まだ幼くて覚えていないのです。それで残念に思い、2年前に椿山荘で螢を見てきたのでした。
 椿山荘も今回の湯河原も完全な自然の螢ではなく、どちらも幼虫を飼育して、それを放流しています。ただ、椿山荘という敷地の中と違い、湯河原の方は河川に放流した螢が公園・河川の付近を飛び回っており、そういう自然に近い螢のようすを見られたことは嬉しいことでした。(ただし、螢の幼虫を飼育して放流することは自然の生態系に良くない、という指摘もあります。)
 私は近年村上春樹の研究をしていますが、村上春樹にも「螢」というタイトルの作品があります。『ノルウェイの森』の原型となったことで有名な短編で、「螢」というタイトルが、このノスタルジーを込めた作品にふさわしいという気がします。
 螢が舞うのはたしかにそれ自体が美しいのですが、どこか私たちの心の中にある郷愁を誘うところが、多くの人々を螢を見に訪れさせる要因になっているのでしょう。完全な自然のままではない螢を見ているという一沫の後ろめたさを持ちながら、さまざまな思いを持って短い間、螢の舞う様子に浸ってきた週末でした。
          
 



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