フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 10~12月期のテレビドラマ(冬ドラマ)の感想を書く3回目です。まだ書いていなかった作品を中心に感想を書いていきましょう。話題作、注目作がまだありました。

『海に眠るダイヤモンド』(TBS系、日曜21時)

昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ 70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大なヒューマンラブエンターテインメント!」という謳い文句。
 TBS系列の日曜劇場は、現在の民放テレビドラマ枠では常に視聴率が高く、評価もされています。それだけに制作費もかなりのもののようで、そうでないとこれだけのおおがかりな作品を制作することはできません。謳い文句にあるように、昭和の端島(軍艦島)やその時代の街や人物達を再現し、そこから長期間の変遷を描くのは、現在の民放ドラマではなかなかできない設定です。既に「NHK朝ドラみたい」という声も上がっています。
  私はこの作品から『エデンの東』(2008~2009年)という少し前の韓国ドラマを思い出しました。炭鉱を舞台とすることや、作中人物たちの長年にわたる生きざまを描くところにも共通点を感じました。しかし、違う点その1は、韓国ドラマ特有の感情の強烈さ。『エデンの東』はまさに憎悪と復讐の物語でした。そこまでの激しさは『海に眠るダイヤモンド』が求めているものとは異なります。そして違う点その2は放送回数。『エデンの東』は全56話、『海に眠るダイヤモンド』は10話程度かと思われます。私は日本でこれほどスケールの大きい民放ドラマが制作されることに敬意を表しますが、いかんせんこの放送回数では、人物達の長い歴史を描くには物足りません。残念ながらドラマ大国韓国に及ばない一つの要因になっているように思います。

『マイダイアリー』(テレビ朝日系、日曜22時台)

物足りなかった人生を変えた“かけがえのない居場所”と 何気ない幸せな日々を描いた 日曜の夜にそっと心を軽くするヒーリングドラマ」という謳い文句。さらに公式HPの説明を紹介すると次の通りです。「完全オリジナルの本作は、社会人1年目となった主人公が各話、些細なきっかけで過去の大切な思い出を振り返る構成で、大学時代を共に過ごした仲間との何気ない日常とその繋がりをノスタルジックに紡いでいくヒューマンドラマ。描かれるのは、自分と他人との間に見えない距離を感じ、言語化できない悩みを抱える若者たちの等身大の姿。育った環境や性格もバラバラな彼らが偶然出会い、次第に互いを受け入れ合うことで、やがて〈心の居場所〉となっていく様子を情感豊かに写し出します。
 とても真面目な制作姿勢を感じますが、失礼ながら一般受けする内容・番宣とは思えません。この作品は、少なくとも視聴率的には苦戦することでしょう。しかしながら、視聴率には代えられないものがあります。それは「言葉の重さ」です。私はテレビドラマ研究者として多くのドラマ作品を視聴しますが、すべてのドラマを集中して見る時間的余裕がありません。そこで仕事しながらの「ながら視聴」になってしまうことが多いのですが、この『マイダイアリー』は「ながら視聴」では、内容がまったく頭に入ってきませんでした。あきらめて真剣に再視聴してみたところ、そこで語られている「言葉の重さ」に驚かされました。そういえば、同じ清原果耶主演の朝ドラ『お帰りモネ』も、そこで語られている言葉のきわめて思いドラマ作品でした。『マイダイアリー』でいうとたとえば、と紹介すると長くなるので、文字数制限内におさまるなら、このブログの最後に一例を貼り付けておきたいと思います。

『それぞれの孤独のグルメ』(テレビ東京系、金曜深夜)

 テレビ東京系列深夜食べものドラマの最大のヒット作、というより、テレビ東京系列ドラマ最大のヒット作といってもいいのが『孤独のグルメ』でしょう。その『孤独のグルメ』も放送開始から12年。過去10シリーズを重ね、今回はついに新しい試みが始まりました。それは井之頭五郎(松重豊)だけが食べるのではなく、毎回違ったゲストが違った人物を演じ、その人物が「孤独のグルメ」をしてみせるという新企画です。謳い文句は次のようになっています。
今回は松重豊演じる井之頭五郎だけじゃない。 毎話それぞれに登場する、様々な世代や職業の 異なる主人公たちが自由気ままに腹を満たす!
 初回ゲストは太田光、2回目はマキタスポーツ、3回目は板谷由夏。たしかにこれは今までの『孤独のグルメ』とはひと味違います。しかし、私としては、今度のは面白い、楽しかったとはあまり感じられませんでした。何故でしょう。たしかに今までの『孤独のグルメ』は12年、10シリーズ続いてマンネリ化しているといえました。とはいえ、視聴者は(少なくとも私は)マンネリを打開してほしいとは思っていなかったのかもしれません。そこまで期待していない、といっては失礼ですが、マンネリ大歓迎。毎回同じように井之頭五郎に食べてもらい、また今日も同じようなものを見たと感じて終わる…それでよかった、いや、そういうマンネリをこそ私は求めていたのかもしれません。数シリーズが一定期間続くと見方が変わるかもしれませんが、少なくとも今は、毎回違ったゲストが出てきて嬉しい、毎回ゲストが楽しみ、という気持ちにはなれませんでした。自分でも意外ですが。

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(おまけ『マイダイアリー』の中の会話一例)

「徳永君って優しいんだね。」
「えっ?」
「いいんだよ。送ってくれなくても。それにウソついたでしょ。バスで降りるの先だって。」
「あれは…心配だったので 2人が。」
「そっか」
「恩村さんだって優しいじゃないですか。」
「ごめん」
「どうして謝るんですか」
「私は 優しくない」
「ポップコーンも 映画館のポップコーンも 自分の好きな量 好きなペースで食べたいのにって、我慢してあげてるって 心のどこかで多分思ってたから
なんでいつもこうなんだろ…優しいい人でありたいだけなのに ただそれだけなのに… ますますごめん」
「僕もよくわからないんですけど…優しさって交換できたらいいですよね。」
「交換って?」
「自分で言って困らないでよ。」
「すいません」



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 10~12月期のテレビドラマ(冬ドラマ)の感想を書く2回目です。恒例のテレビドラマ批評として、放送されている作品の感想を書いていきましょう。前回の5作品に続けて、今回はプライムタイム中心に5作品の感想です。

『わたしの宝物』(フジテレビ系、木曜22時)

「昼顔妻」「セックスレス」…新たに描く禁断のテーマは、「托卵」」という謳い文句。子どものほしい既婚女性(松本若菜)が主人公。しかし、その夫は外面の良さとは裏腹のモラハラ男。そのときに現れた懐かしい、そして優しい後輩(幼なじみ)…。と、ここまではありきたりともいえる定番の設定。そこから何が違うかというと、「不倫の恋」を描くのが中心ではなく、別の男との間にできた子どもを夫の子と偽る点がドラマの主眼のようです。その証拠に、その相手はすぐに国外に去って、しかも事故死してしまうらしいのです。となると焦点は子どものこと。「昼顔妻」「セックスレス」に比べるとロマンチックさのない話にも思えるのですが、その分これから「どきどき」「はらはら」または「どろどろ」を見せてくれるのでしょうか。

『モンスター』(フジテレビ系、月曜22時)

 「”常識”にとらわれず、”感情を排除”して相手と向き合う、モンスター弁護士」という謳い文句。その主人公を趣里が演じます。初回を見る限り、主人公は変わり者ではありますが、”モンスター”とまでは見えませんでした。私の注目は脚本家の橋部敦子。『僕の生きる道』や『僕のいた時間』といったヒューマニズムあふれる作品を書いた脚本家で、一見するとこの作品は過去の橋部作品とは作風が違っているようにも思えます。初回末尾で「モンスター」は必ずしも主人公弁護士とは限らないという驚きをしかけていて、ただ”感情を排除”したモンスター弁護士の話にはとどまらない作品になるだろうという予感がします。
 
『ライオンの隠れ家』(TBS系、金曜22時)

家族愛や兄弟愛の変化を描く愛と絆の物語が幕を開ける—」という謳い文句。「弟のために生きる兄(柳楽優弥)」と「自閉スペクトラム症の弟(坂東龍太)」、そんな兄弟が、目の前に現れた男の子を引き取って3人で暮らす話。初回を見る限り、「あれ、これNHKだったっけ?」と思うような特別に真面目な作品でした。子どもを引き取る話なら「マルモの掟」のような作品なのかな、とも思ったのですが、ここから男の子にかかわる謎がからんでくるようで、「ヒューマンドラマ」というよりは「ヒューマンサスペンス」なのだそうです。2回目からはそちらの要素が強くなってきました。期待はおおいに持てますが、「ヒューマンドラマ」+「サスペンス」が足し算になってほしいですね。引き算にならないことを願います。

『無能の鷹』(テレビ朝日系、金曜23時台)

超・脱力系お仕事コメディ」だそうです。仕事ができそうに見えてまったく有能ではない女性社員(菜々緖)と、仕事ができなそうに見えて実は有能な男性社員(塩野瑛久)のコンビ。このアイデアには驚かされました。近年のテレビドラマはアイデアが出尽くしてきていて、何を見ても「似たようなドラマ見たなあ」と思ってしまいます。しかし、原作漫画があるとはいえ、この発想と設定は斬新だと思いました。とはいえ、私はこのような2人がいたら、組織としてはどう仕事させたらいいのかと、わりと真剣に考えてしまい、素直に楽しめませんでした。いけねえいけねえ、「脱力」できない私の悪い癖が出てしまいました。無能なのにすごい仕事できそうに見える鷹野(菜々緖)のキャラクターを楽しめばいいんですよね。

『バントマン』(フジテレビ系、土曜23時台)

すべての道は野球に…コミカル&ハートウォーミングなオリジナルストーリー!」という謳い文句。正直に言って、それほど人気が出る作品とは思えませんが、よくぞこんな作品を制作するなあ、と逆に感心しました。「戦力外通告を受けた主人公を待っていたのはプロの球団ではなく一般企業。しかも送りバントのように誰かのためにチャンスを提供する「バントマンになれ」という指示を受ける。子どものころからヒーローとして花道を歩んできた生粋のホームランバッターが、これまでの生き方とは真逆の 地味な“バントマンの道”を歩むことができるのか…?」という話。しかも中日ドラゴンズの全面協力!「そんな企業あるかい!」とツッコミたいのをこらえて、この作品を大真面目に制作した関係者に敬意を表したいと思いました。

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 10~12月期のテレビドラマ、いわゆる冬ドラマが始まっています。恒例のテレビドラマ批評として、放送されている作品の感想を書いていきましょう。まずはプライムタイム作品からですが、雑事があれこれあって時間がとれず、初回は5作品の感想だけでご容赦ください。刑事・警察ものにはあまり興味が持てないので、今回はスキップです。

『嘘解きレトリック』(フジテレビ系、月曜21時)

「貧乏探偵&奇妙な能力者によるレトロ・ミステリー」という謳い文句。登場人物の魅力とともに、昭和初期のレトロな雰囲気はけっこう好きです(YOASOBIの『大正浪漫』も好きですし)。ただ、初回を見る限り、謎解き部分にはほとんど重きを置かれていないので、ミステリーといっても本格ミステリーとはほど遠いものです。私は謎解きにはほとんど興味がないので、その点はよいのですが、となると次回以降は何を見どころにしたらいいのか…。嘘を見抜いてしまうという特異な能力を持つ女性(松本穂香)が、その能力ゆえに周囲から疎まれてきた経緯を克服し、貧乏探偵(鈴鹿央士)とともに、いかに人のためにその能力を活用していくのか。私としては、しばらくそういう関心で今後を見てみようと思います。

『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』(日本テレビ系、日曜22時半)

オルコット『若草物語』を原案とした四姉妹の物語。「四者四様の幸せを追いかける 社会派シスターフッドコメディー」だそうです。現代に舞台を設定しているので、描かれるのはきわめて現代的な人物像とそのかかえる課題です。初回を見る限り、次女の町田涼(堀田真由)がメインに描かれていました。脚本家志望ながらドラマの助監督を務め、初の演出デビューに際して大物脚本家と意見が異なり、ぶつかってしまう…という話でした。涼の言いたいことはわかるのですが、初演出でそこまで自己主張しなければいけないのか、と疑問に思ってしまいました。そんなに自分の世界観で作品を撮りたいなら、まずはそれが許されるような実績を積むしかないのに、と感じて、私は作中人物に共感できませんでした。作品のターゲットは私のような高齢男性ではないのかもしれません。

『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系、火曜22時)

少し長いですが、謳い文句は次の通り。「どんな逆境でも、立ちあがれ!出会いをきっかけに止まっていた人生が動きだす ボクサーを目指すアラサー女子 × 沼らせ男 が繰り広げる クズきゅん♡ボクシングラブコメディ!」
そんなに「クズ男」「ダメ男」にひっかかってしまうものなんでしょうか?いや、「クズ男」だなあとうすうすわかっていながら、顔がいいとか、表面的にやさしいとか、そういうことで離れられなくなるっていうのは私にもわかりますよ。しかし、「クズ男とだけはつきあわない」って心に決めているのにひっかかってしまう、っていうのは私にはよくわかりません。よほど人を見る眼がないのか、よほど人の眼をあざむくほどの巧みなクズ男なのか。後者だったら会ってみたいものです。いや、会ってみたいのはクズ女(美貌の結婚詐欺師?)かしら。

『宙わたる教室』(NHK、火曜22時)
『放課後のカルテ』(日本テレビ系、土曜21時)

放送されている作品数が多いので、学校を舞台にした2つの作品を一緒に書きます。『宙わたる教室』は、定時制高校に勤める元研究者の物理教師の話。『放課後のカルテ』は、実験的に小学校に配置された医師の話です。共通点はどちらも「変わり者」、そして「通常の学校にはいないタイプの人物」です。しかし、その「変わり者」であるがゆえに、教師や生徒たちが気づかないことに気づき、そこから学校を変えていきます。
「学校ドラマの変遷」は私の授業や講演も持ちネタのひとつです。学校を舞台とするドラマはいつの時代にもありますが、そこに描かれる世界は時代背景を如実に反映します。詳しくはここでは触れませんが、現代の学校ドラマでは「カリスマ性」や「熱意」よりも「生徒の多様性」に目を向けることが求められています。この2作品にもその傾向が強く反映していて、私には刑事・警察ものよりはこちらの2作品の方に惹かれるものが多くありました。

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 NHK連続テレビ小説、いわゆる朝ドラの新しい作品が始まりました。今までの『寅に翼』にかわって、今月から『おむすび』が放送されています。
 『寅に翼』は好評でした。社会問題やジェンダー問題をふんだんに折り込んだ作品でした。後半はそうした問題を詰め込みすぎて、やや過剰になっているとも見えましたが、それでも見ている人たちにおおいに考えさせる内容になっていました。それに対して『おむすび』には、そうした考えさせる要素が少なく、全体に軽く見え、内容的にもインパクトがないように感じられます。
 これは作品の時代にも関係があります。朝ドラの一つの典型は、過去の実在人物をモデルとし、(主に女性の)新しい分野を切り開いた過程が描く作品です。当然、その時代の価値観との葛藤や格闘が生じるので、そこに強いインパクトが視聴者に対して生じます。それに対して現代を舞台にとった作品は、そうしたパイオニアとしての要素が少ないため、何か別の要素を取り入れる必要がありました。『あまちゃん』は東日本大震災とアイドル文化という要素から、『おかえりモネ』もまた東日本大震災と言葉の重さという要素から、現代劇であっても視聴者に強いインパクトを与えようとしていました。
 そうした過去の朝ドラから見てみると、『おむすび』にはそうした強いインパクト性が感じられません。それはこの作品の弱さともいえます。しかしながら、担当する脚本家・根本ノンジのこれまでの作品を見てみるならば、そうした強いインパクト性をはじめから狙っていないようにも思えます。根本ノンジはこれまで多くの作品を担当してきましたが、いわゆるエンタテインメント性の強い作品が多く、社会問題や強い主張をむしろ前面に出さないところに特徴があるように思います。近年でいえば『正直不動産』がそれにあたります。強引なやりかたで営業成績をあげてきた不動産会社の営業社員が、あるきっかけから「嘘のつけない」体質になってしまうというコメディ。だからどうというおおげさな主張は何もありませんが、見る人の心の中にほのぼのした印象を残す作品でした。それが視聴者に受け入れられたことは、第2シリーズが制作されたことからもわかります。
 『寅に翼』と『おむすび』を比較すれば、「インパクトが強い/インパクトが弱い」「社会問題に切り込む/社会問題にかかわりが薄い」「作品に重さが感じられる/作品が軽く感じられる」という差異は出てきます。しかし、それがイコール『おむすび』の弱点なのか。これはもう少し見てから判断したいところです。願わくば、『おむすび』の軽さがじわじわと視聴者にしみこみ、やがてその世界が視聴者にとって身近で親しいものになっていけばいいなあ、と期待しています。

(10月8日追記)
上記のように書いたのですが、2週目も見て、なんとなくもやもやしています。「朝ドラ」主人公というのは、だいたい自分のしたいことを一直線に追求していくか、あるいは自分のしたいことを真摯に探していました。『あまちゃん』のアキも『お帰りモネ』の百音も、したいことが決まらずにそれを探していました。アキが海女やアイドルになるまで、百音が気象予報士になるまで、したいことが決まらなくても、その姿勢は真摯でした。それなのに、今回の主人公・結が、むりやり(いやいや)ギャル仲間に入れられているところが不快です。いやいやなら仲間にならなきゃいいのに、朝からそういうもどかしい姿を見せられるのは、気分があまりよくありません。


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