音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

クラリネット協奏曲イ長調 (ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト)

2009-11-30 | クラシック (協奏曲)


このブログを始めて私自身が改めて気づいたことというのは大変多いのだが、そのうちのひとつに自分がモーツァルトのレコードやCDを沢山所有していて改めて丁寧に聴きなおすと、今まではどれを聴いても同じに聴こえた彼の楽曲のひとつひとつがそれぞれ時代と共に色々特徴があるということと、実はモーツァルトは時代にとても敏感な音楽家で、現代でいうポピュラーの流行作曲家であったということ、そして、意外に私自身がモーツァルトの旋律が好きだったという発見である。私は典型的な3B崇拝者として10代の頃からそう思い込んできたが、実はマーラーやショスタコも好きだったり、本当は聴きこんだらワグネリアンだったりするのではないかという心配も出てきた。最近は良くクラシックの書物も、特に、楽曲構成や音楽理論を中心に読んでいるが、色々考えているうちに、実はクラシック・ピアノをやっているときは、一方的にクラシック・オンリーだと決めつけていた大変未熟な時代だったのだと思う。

モーツァルトは楽器を理解し、その楽器の持つ魅力を最大限に発揮させることを真剣に考えた音楽家であるということを何度かこのブログにも書いているが、その最たる作品がこのクラリネット協奏曲である。そして、このクラリネットのコンチェルトでは最高の名曲であると同時に、モーツァルト自身の作品の中でも十指に入るし、私自身も旋律的にはベスト3に入る作品である。まず、イ長調で書かれていて、モーツァルトで言えば、交響曲第29番、ピアノ協奏曲第23番、ヴァイオリン協奏曲第5番、クラリネット五重奏曲、ピアノソナタ第11番と名曲揃いであるし、逆にイ長調の代表曲を3つあげろといわれたら、間違いなくこの曲と、ベートーヴェンの7番、更にシューベルトのピアノクインテット「鱒」をあげるだろうが、モーツァルトが流石だと思うのは、クラリネットのA管を使って、イ長調のクラリネットの名曲を2曲作っていることである。この辺りが、如何にモーツァルトが楽器の特性を勉強し、知り尽くしていたかということである。但し、実はこの曲には原曲があり、「G管バセットホルンのための協奏曲 ト長調」がそれである。有名な話であるが、この曲はアントン・シュタードラーというウィーン宮廷オーケストラのクラリネット奏者にあてて作られた。彼は世間知らずのモーツァルトにとっては悪友で、博打で金を巻き上げられていた。一方モーツァルトはクラリネットの名手として彼を大変尊敬していたが、この時代、クラリネットという楽器はまだ認知が低く、一般には、シャリモーという楽器とバス・クラリネットが主流であった。そしてシュタードラーはモーツァルトにこの名曲を作らせて自分が演奏することで、クラシック奏者としての地位を築いたのである。またもうひとつ、モーツァルトにとってこのクラリネットという楽器はバセット・ホルンと並んで、フリーメイソン的性格をもつ楽器であったようだ。確かにモーツァルトは晩年、このフリーメイソン思想に大変のめり込んでその象徴ともいわれる「魔笛」と「レクイエム」の間に書かれたのがこの曲である。また同時に私ごときには到底聞き込んでいないが、この曲の第3楽章はロンド形式をとっていながらも、それまでのモーツァルトの楽曲に比べると明るさが少なく、既に、死を意識していたと言われるが、私には、第2楽章のアダージョも含めて、全くそんな音には聴こえない。

因みに、まだモーツァルトの時代にはエーラー式もペーム式のクラリネットも開発されなかったために、モーツァルト以降はこの楽器を使ったコンチェルトや室内音楽は中々生まれなかった。しかしその後、現代音楽の作曲家たちは挙ってクラリネットのシンフォニーを作った。そういう意味ではこの楽曲の演奏機会も大変増えて、名曲のひとつとして認知されるようになったし、その発達する楽器をあの時代に想定できたモーツァルトという人は本当に勉強家であり、表現力の素晴らしい音楽家であったに違いない。

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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私の (kiyomi)
2009-12-06 21:45:46
私の大好きな作品です。モーツァルトはこの曲とクラリネット五重奏曲が素敵ですね。

もっとも、私はフルートの方が専門ですが、クラリネットも吹けない訳ではありません。
勿論、プロではないので完璧には演奏できませんが、一番良く聴く曲かもしれませんね。

フルート協奏曲よりも好きです。

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