音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

アニマルズ (ピンク・フロイド/1977年)

2012-03-08 | ロック (プログレッシヴ)


自他共に認める大のピンク・フロイド・ファンであるが、実はこの作品はその中にあっても特別である。私はリアル・タイムで最初に出会ったフロイドの作品が前作の「炎~あなたがここにいてほしい」であることは何度かこのブロクにも書いた。そして、その後この作品が出るまでの約2年間の間に、名作「狂気」「原子心母」などの過去作品をすべて聴いた。はじめはランダムであったが、その後ファーストから続けて聴いたりした。当時、そういうバンドは多く、中でも私はプログレッシヴ・ファンであったから、イエスクリムゾンも同じように聴いたが、フロイドは本当に徹底して聴いていた。そして、この「アニマルズ」に出会って、私はこのバンドの本当の凄さと、今後の進もうとしている方向性がある程度分かり、そして同時にとてつもない事をやろうとしているのだと言う憶測を予感したのである。

「アニマルズ」は発表前から既に収録の曲がある程度分かっていた。それは、前作が2枚組になるという予定を中止して、「炎」に含まれなかった「大作」があることを発売時にメンバーが話していたからだ。2枚組にならなかった理由は単純で、「狂気」の大ヒット、大傑作の次の作品としてファンから敬遠されることを商業音楽的に嫌ったのであろう。ただ、この時点で既に、「ウマグマ」という2枚組も出ていたし、イエスやEL&Pはライヴとは言え、3枚組の作品を発売していたが、流石にこの時点で、前作がプレスリーやビートルズも越えた、「世界で一番売れた」アルバムだと「売れている」という規模が極端に違うのであろうか。しかし、この収録されなかった「You've gotta be crazy」と「Raving and droolong」が、それぞれ「ドッグ」「シープ」として改変、再レコーディングされたことは結果的に良かった。それというのもこの2年間の間に、フロイド並びにポップ音楽を取り巻く環境が大きく変わったことである。それは、パンクというテイストだった。無論、フロイドがパンクバンドになる訳はない。だが、「狂気」によってポップ音楽の最高峰に君臨することとなった彼らに取って自分たちの足下の音楽を無視する訳にはいかない存在になっていたのは、ビートルズと同じである。奇しくも、ビートルズが「サージェント・ペパーズ~」を発表してから丁度10年経ったこの時に、フロイドはパンクの持つ「体制批判」の観点から独自の持論を発することとなった作品が、このジョージ・オーウェルの寓意小説『動物農場』に影響を受けたとされる「アニマルズ」であった。フロイドは、原作の設定である「権力の走狗」的な存在であった「犬」、「豚」、「羊」をそれぞれ「知識階級」、「支配階級」、「無知な大衆」という類型に当てはめて痛烈な社会批判を展開した。さらに"Pigs On The Wing "というアコースティック曲で最初と最後を飾った。フロイドはこうして、時代を先取りしたと同時に、前作ではまだ迷いがあったという疑いを掛けられたシド・バレットとの決別をこの作品で決定付けた。そう、もうこの作品の何処にもシドを連想させるものは無い。楽曲的に言うと、やはり前作の候補曲だった2曲、"Dogs"と"Sheep"は可也完成度が高い。特に前者はフロイドの大作の中では「原子心母」、「エコーズ」にも引けを取らない名曲に仕上がっていて、実に脱帽である。

そして、ここにはフロイドの次なる道も示されている。それはまさに「視覚」である。今回、後から加わった3曲はすべて「豚」であるが、そこには「翼を持った豚」という視覚の妙が含まれているが、その作品発表の直後からフロイドにツアーも随分変わり、この作品の曲と前作が中心になり、ライヴ会場にはこのアルバムジャケットにも描かれている「豚」が天井から吊るされ観客席を飛び回る。まだジャニーズは愚か、ミック・ジャガーですらクレーンで吊るされた事の無かった時代に、フロイドは堂々と「豚」を吊るしたのだった。彼らの先見性はこの頃一気に花開き、そして2年後、あの大作で再び音楽界のみならず、全世界を驚かす事になるのだ。


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