音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

インナーヴィジョンズ (スティーヴィー・ワンダー/1973年)

2011-11-10 | ソウル・アフロアメリカン・ヒップホップ等


私の「残念な音楽鑑賞歴」の一つに、黒人音楽をきちんと理解していなかったという実に悲しい過去があることは、このブログにも何回か書いた。中でも、とりわけこのスティーヴィー・ワンダーに関しては本当に浅い付き合いしかしていなかったことは後悔している。それには理由があって、私はレコードを自分の小遣いで買いだしたかなり最初の頃に、彼の「悪夢」というシングルヒットに遭遇し、ん、これはと思いこの曲の入っているアルバム「ファースト・フィナーレ」を買ったのだが、これが中々当時の自分には受け入れられなかった。多分、難しかったのだと思う。なので、結果「悪夢」ばかり聴いていて、12インチシングルを買ったのと同じ状況になってしまった。これに懲りたのか、暫くソウルから遠ざかってしまったのは事実。このことは凄く残念な過去だったと思う。

前作「トーキング・ブック」のところでも少しふれたが、このアルバムに含まれている名曲2曲の「迷信」はBB&Aから、また「サンシャイン」もFMで聴いていていい曲だと思ったらスティーヴィーだったという結末だった。そんなことから私の中でこの偉大なミュージシャンはすっかり、「シングルアーティスト」になってしまったのである。その後、断片的にソウルやジャズ(そう、ジャズに関しても私は随分勝手な偏見を持っていた)は巡り合わせで聴いていたところに悪夢の「ディスコ・ブーム」が。これが、更に私に取って、対ソウル音楽のテンションを下げてしまったことは言うまでもない。だから、この2作品後の名作「キー・オブ・ライフ」も、シングルは全部把握しているが、アルバム(勿論、同時に全米TOP40リスナーであるから、レコードを買うことは買うのであって、シングルカット以外は聴かないのだ・・・)としてトータルで聴いたのは随分後のことなのである。お恥ずかしながら、ソウルに関しては余り偉そうなことは言えない。だが、改めて聴いてみると、この前作「トーキング・ブック」から、本作品、「ファースト・フィナーレ」、「キー・オブ・ライフ」という4連作はまさに音楽界の至宝、スティーヴィーが満喫できる作品群で、私はいつもこの4作品は一気に聴いてしまう。そしていつも思うのは、「シングル以外の曲がなんでこんなに素晴らしいのだろう」ということだ。極端にいえばスティーヴィーは、シングルには話題になる曲を、そしてそれ以外には自分のやりたい音を探求しているのである。特にこの作品はまず「トゥ・ハイ」、「汚れた街」の2曲がダントツにいいのだが、それ以外にも「ハイアーグラウンド」(この曲はレッチリもカバーしているがそれもまた格好いい)、「神の子供たち」などは、多重録音はこの時代にしては実に聴きどころである。以前には理解できなかったのが、彼の曲は一曲一曲も良いのだが、アルバムを通して聴くとまた流れがとてもよくまとまっている点があげられる。音楽ファンならご存知の様に、モータウンは、以前はコンポーサーとシンガーは明確に分かれていて、そのトータルプロデュースを一人で始めたのがマーヴィン・ゲイであるが、その話を聞きつけて当然、スティーヴィーもそれを買ってでた。それが、スティーヴィーの歴史である「第2期モータウン時代」である「心の詞」の発表に繋がるが、これは正解だったことは明白で、この事が偉大なるアーティスト、スティーヴィー誕生に繋がるのである。

しかし、彼の音楽を聴くことで、最近は黒人音楽が色々な要素でポップ音楽の中軸に位置していることが分かるのである。そういう素晴らしい存在なのである。そしてこの歳になって、また改めてポップ音楽の良さを再認識しているのである。


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1 コメント

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スティーヴィー・ワンダー (kawai masaki)
2011-11-12 09:39:47
正直なブログを読ませて頂きました。ロック音楽やポップ音楽を語る人が、実は黒人音楽をきちんと理解していなかったとはなかなか語ることが出来るものではありません。日本中世の仏像美術に詳しい人が、実は仏教の教えをよく知らなかったと告白するに等しいもので、ブログ主さんの正直なお人柄に改めて敬服します。

好きな音楽についてブログ主さんといろいろ共通項のある僕ですが、ときどき全く趣味の異なるところがありました。でもこの告白を読んで納得がいきました。僕はといえば、最初ロック音楽が好きになったものの、そのルーツとされるブルースやソウル、R&Bへとどんどん遡って好きになり、ロバート・ジョンスン、サム・クック、レイ・チャールズやジェームス・ブラウンという聖人たち(笑)にたどり着き、聖人たちの前後に影響ある音楽家たちをさらに聴くようになったからです。

僕とほぼ同年代のスティーヴィー・ワンダーはまさにこうした聖人たちに影響を受けた同時代の音楽家でした。1962年に12歳のスティーヴィーが「レイおじさんに捧ぐ」というアルバムでレイ・チャールズそっくりに歌っていますが、20代からのスティーヴィー・ワンダーは独自の音楽世界を作ってゆきます。作詞作曲、歌唱、演奏から編曲、プロデュースまで全てを手がけるその姿はR&Bとかソウルとかを超え、スティヴィー・ワンダーというカテゴリーを作ったようなものです。

こう書く僕ですが、スティーヴィーの素晴らしさはメロディメーカーとしての才能にあると思っています。メロディーとはある種の順列組み合わせで、印象に残るメロディーなどもう出尽くしたのではと思っていた80年代半ばに、「心の愛」(原題: "I Just Called to Say I Love You")を聴いたときは、こんなに印象に残る曲で、しかも簡単な言葉で心に残る詞を書くことの出来る彼の才能に改めて驚かされました。

こうした思いを共有することが出来たきっかけを作ってくれたブログ主さんに感謝です。
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