音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

スペイス・オディティ (デヴィッド・ボウイ/1969年)

2013-09-07 | ロック (イギリス)


このアーティストのレビューも、これまで適当な順番で書いていたが、前回、ファースト・アルバムを書いたので、今後は順番に書こうと思う。しかし、筆者は本当のところ、全くこの人の凄さに気づいていなかった。いや、もしかしたら気づいていたのだけど、天は二物を与えないどころか、彼は余りにも色々なものを持ちすぎていて、きっと心の何処かで嫉妬していたのかもしれない。だから認めたくなかったのかも。でも、もうこういう年齢になってくると、良いものというのは無条件によくて、だからそれを認められなかった若い頃というのが妙にもどかしい。そう、こと、音楽に関していえば、その良いものを良いと認めていれば、次なる未知の領域に近づける第一歩になるのに。随分遠回りをしてしまったのかな? あ、でも、これは音楽だけじゃないかもしれない。

というのも、このデヴィット・ボウイのセカンドアルバムが注目されたのは、丁度、アメリカのアポロ計画が話題を集めていた時代であった。既にこの曲を録音していたボウイのマネージャーであったケネス・ピットが、このタイトル曲である「スペイス・オディティ」の入ったサンプルテープを方々に売り込み、結果、フィリップス・レコードとの契約に至ったが、これが大成功だったのは、BBCのアポロ月面着陸の特番などで「スペイス・オディティ」はテーマ曲代わりに頻繁に流され、イギリスのチャートで5位まで上がるヒットを記録した。これにより彼の名前はイギリスだけでなく、全米にも知れ渡るようになったのだ。だが、実はこの「スペイス・オディティ」という曲は、「架空の宇宙飛行士、トム少佐が月面着陸とともに己の無力さを感じ、広大な宇宙の果てへと漂流してしまう」という内容である。アポロ計画で全世界が沸き立っていた頃、一方で近代化に対するアンチテーゼを含んだこの曲がシングルとして大ヒットしたという事実も、ある意味音楽という芸術表現だからできる世相への提言で、それが、アポロの月面着陸は猿芝居だという疑惑に繋がったり、後押ししたりはしていないが、後々の評価としてこの時点で一石を投じていたと、この作品はアポロの人類初の月面着陸という歴史的事実が話題になる度に、同時に思い起こされるレベルになったことは大きい。そんなことで得をした観のある作品であるが、一方でこのアルバムはファースト・アルバムから一転して、ボウイの音楽センスの良さが随所に発揮されている。無論、ファーストも素晴らしい内容だが、実はこの間に彼は、短編映画『イメージ』(1968年)への出演が決定し、その撮影の際にリンゼイ・ケンプと出会い、その・ケンプの劇団の元で過ごしてパントマイムの腕を磨いたことは有名だ。彼のステージは音楽以外にも、全身で表現するヴォーカリストとして動きを楽しめることは周知の事実だが、翻って、このパントマイムで培った経験というのが、音楽の表現にも生かされたのだというのが筆者の見方である。なにしろ、センスだけでなく、感が良い、まさに「アーティスト」なのだから、と、こういう事を以前は「認めて」いなかったから、彼の本質をずっと見誤っていたのだと思う。

ボウイはこのあと、「グラムロック」に遭遇し、自身その中心に位置する。そして、あの不朽の名作「ジギー・スターダスト」を発表するが、その間に2枚の作品を発表している。それに関しても今後、レビューを書いていきたいが、しかしなにが凄いかって、その「スピード」である。筆者にはその時代はまだリアルタイムでポップ音楽を聴いていなかったが、ボウイは普通の人が5年から10年の歳月を必要とする事を1年係らずにやってしまうこと。これは、まさに彼自身が"Starman"なのではないかと最近はそう信じている(笑)


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