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小説『タクシーで…』(ドーナツ屋Ⅲ)

2011-01-08 09:15:16 | 短編小説

オレは今年の五月、スーパーで偶然、佐希ちゃんと会いました。高校時代の彼女だった女性です。

二人とも五十を過ぎて…、独身でした。何故かとても懐かしくて…、全然変わってなくて、気分は一気に十八歳に遡りました。

そういえば、オレ、青春してなかったなあ…。そう思うと…、ドキドキして、青春…、したくなりました。

それから、一週間後、佐希ちゃんにメールを送りました。食事をしようと…。

カウンターと小上がりが一席の、小さな寿司屋です。

佐希ちゃんは、三十分の遅刻です。いつもそうでした。

…。『ゴメン…、サクラ、待った?』

…。『いや…、今来たとこ…。』

…。まだ、直ってないのかよ…。昔と同じ会話です。

そんなこんなで、佐希ちゃんは散々酔ってしまって、言いたい放題。

オレは、大事な店を紹介したのに、冷や汗ものでした。

 しかし、大将も女将さんも、佐希ちゃんを気に入ってくれて…。あの後も、何回か行きました。

 それで…、恥ずかしながら…、男女の仲に…、なっちゃいました。でも、結婚は…、二人とも仕事をしているし、このままでいようってことになりました。

 これは、佐希ちゃんには内緒ですが、二人とも仕事が定年になったら、結婚しようかなって…、オレは思っています。

 今さら結婚か…、って思うかもしれませんが、仕事がなくなったら、きっと寂しいと思います。一軒家に一人で暮らすなんて…。

 今日も、あの寿司屋に来ています。

 やっぱり、佐希ちゃんは三十分の遅刻でした。まだ…、直ってません。

 「佐希ちゃん…。お酒を提供するお店の、奥さんや女主人のことを、何で女将さんって言うか知っているかい?」

 …、なんだよ、サクラ。また始まったよ。

 「知らないよ。知りません。教えてください。」

 …、あれ、佐希ちゃん、怒っちゃったのかな。ま、いいや…。

 「それは、神代の昔の話なんだけどね。お酒を造るのは、女性だけに許された特権だった。何しろ女性は神様だから。天照大神の別名は大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)。『ヒルメ』は『日の女神』を表すとされることから、一説には『卑弥呼』ではないかといわれている。」

 …、ったく、何が卑弥呼だよ。長くなりそうだな。

 「オジサン、お酒下さい。」

 「おいおい、佐希ちゃん、大丈夫…。」

 「大丈夫も何も…、サクラの話はシラフでなんか、聞いていられないよ…。」

 …。えーっ。シラフって…。もう相当酔ってるじゃないか…。

「あ、ゴメン。お酒の話だったよね。昔のお酒は米などの穀物や木の実などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置して造っていたんだ。こうしてできたお酒を『口噛み酒(くちかみさけ)』と呼んでいたんだ。そして、お酒を造る女性は噛む人、『お噛みさん』と呼ばれた。だから、女将さん。」

 寿司屋の大将が、寿司を握りながら…。

 「桜井の旦那は、何でもよくご存知だ。だから、我々の商売は、カミサンに頭が上がらない…。」

 「オジサン、上手い!」

 「へい、ありがとうございます。シシャモの握り、気に入っていただけましたか。広尾産のオスのシシャモです。市内じゃ滅多に食べられませんよ。鮮度が命ですから…。ヒラメのエンガワようだって方もいらっしゃいますが…。生は十月中旬から十一月の初旬までですから、もうそろそろ終わりですかね…。」

 「そうじゃなく。話が上手い。いい突っ込みでした。サクラの話は面白くないけど、いいオチをつけてくれたよ…、オジサン。」

 大将は、私のほうを向いて頭をかいた。

 「佐希ちゃん、もう帰ろうか。いい機嫌になったようだし。女将さん、クルマ…、お願いします。」

 間もなく、タクシーが着ました。

 「もう帰るのかよ。だから酒を飲まないやつはダメだっちゅうんだよ。」

 …。あああ。完全に酔っ払いだよ。

 「ハイハイ、分かりました。」

 「ハイは、一回でいいの…」

 佐希ちゃんを、やっと座席に押し込んで、タクシーは動き出しました。

 「運転手さん、静かにね。私はもう、産まれそうですから…」

 …、え、何…。産まれるって…。

 「え、何言ってるの、佐希ちゃん。」

 「こらっ…、わたしを酔わせといて、何言ってるのとは、なんてこと言うんだ。ネエ、運転手さん…。」

 「そうですよ、旦那さん。奥さんを大事にしてあげないと…。」

 「ほら、いい運転手さんだ。オジサン、名前なんて言うの?今度から指名するから…。」

 「ハイ。ありがとうございます。来間卓志と言いますので、ヨロシクお願いします。」

 「キャッハッハハハ…。オジサン。なに言ってるの…。クルマはタクシーだってことぐらい知っているわよ。」

 「ですから…、名札を見てのとおり…、私の名前が、来間卓志(くるまたくし)…。」

 「え、冗談じゃないの。」

 「ええ、皆さんに笑われます。でも、親に感謝してます。何の因果か、こんな商売をしてますから、一回でお客さんに覚えていただけるんです。」

 「そりゃあ、忘れないは…。あんまり笑わせるから、産まれるかと思ったわよ。」

 …。なんだよ、コイツ…。本当に妊娠?…したのか…。

「何言ってるの…、佐希ちゃん。」

 「旦那さん、いいじゃありませんか。お見かけしたところ、お歳はチョイと行き過ぎている気がしますが…、恥ずかしがることはありませんよ。子宝っていいますから…」

 ん、何…、二人で盛り上がってるんだよ。

 「そりゃね、日本での記録は四十六歳だったと思いますよ。自然妊娠で…。人工授精では英国で六十歳っていうのが、高齢出産であるそうですが…。」

…。え、もしかして…、佐希ちゃん、人工授精したの…か?

「佐希ちゃん、オレに黙って…、まさか、人工授精…。」 

 「何、馬鹿なこと言ってんだよ、サクラ。調子が悪くてさ…、更年期かと思ってガッカリして…。それで、お医者さんに見てもらったら、おめでとうございますって言われたの…。そうでもなさそう…。」

 「おめでたいじゃありませんか。旦那さんも、素直に喜んだらいいんですよ。」

 「そうだよ、タクシーの言うとおりだよ。素直に喜べ、サクラ。」

 …。何言ってんだよ、佐希ちゃんは…。

 「喜べも何も…、オレたち、まだ結婚もしてないし…」

 「こらっ!どうしてもって、無理やり関係をせまっておいて…、今更逃げるのか、サクラっ。ワタシの柔肌を奪ったくせに…。」

 …、無理やりって、どういうことだよ。無理やりなんて、出来るもんかよ。あんなこと…。お互いの合意の下、恥ずかしながら、ことに及んだんじゃないか…。

しかし、あんなに恥ずかしいとは、思わなかったよ…。だめだねえ。時機を逸しちゃうと、どうしていいかわかんなくなっちゃう。

 …。恐れ入ります、では失礼して…。

 …。いやあ、恐れ入ることはないわよ。こちらこそ…、宜しかったらどうぞ…。

 なんて、譲り合って…、中々ことに及ばない。始まる前に、汗びっしょりだったよ…。

「そんな、逃げるだなんて…。どうしたらいいの…、運転手さん。」

 「旦那さん、私に言われても困りますよ。お二人のことなんですから…。」

 「そうだよ。タクシーを巻き込むなんて、卑怯だぞ、サクラ…。」

 …。何が卑怯だよ。まったく…。

 「タクシー。タクシーはどうしてタクシーに乗ってるの?名前が卓志だから…、小さい頃の憧れだった…?」

 「違いますよ、お客さん。私は以前、中古車の販売業をやってたんです…。」

 「え、じゃあ…、社長だったの?」

 「小さな店ですが、一応は…。」

 「スゴイじゃない。で、今はタクシー…。」

 「ええ、恥ずかしながら…。」

 「どうしたの?」

 …。もう佐希ちゃん、やめなよ。

 「佐希ちゃん…。人にはそれぞれ事情があるんですから…。」

 「あ…、そうだよね。ごめんね。」

 「いいんですよ。タクシー業界も、今じゃあ、仕事のないオヤジのたまり場ですよ。稼ごうにも、こんなにお客がいないんじゃあ商売にもならない。オヤジの暇つぶしみたいなもんですよ…。」

 「そうですよね。私も石油関係の会社に勤めていますが…、さっぱりで…。わかりますよ。十勝は免許証の数だけクルマがあると言われる土地柄ですから、バブルの頃は車が飛ぶように売れました。私らも、お陰で儲かりましたよ。しかし、ここんとこの不景気で、遊びに行かなくなっちまった。若いもんは車がないと、彼女も出来ない時代でしたが、今はそんなこともない。景気が悪いから、クルマを入れ替えない。当然、中古車は出回らない。中古車販売業はどんどん少なくなってしまいました。飲み会だって…、今は車で行く若者が多い。一番売れるのがウーロン茶だなんて笑い話もある…。」

 「そうなんですよ。旦那さんの言うとおりなんですよ。みんなクルマで帰るから、タクシーに用はない。お客さんのように、酔ってタクシーで帰るお客は貴重ですよ。…あれ、でも旦那さん…、飲んでないんじゃ…。」

 「そうなんですがね。駐車場を、行ったり来たりが面倒で…。」

 「そういうお客さんが増えてくれれば、ありがたいのに…。」

 「ちょっと、二人で何を話てんのよ。なんか…、気持ちが悪いんですけど…。」

 …。もう、佐希ちゃん、なに言ってるんだか…。本当に悪阻(つわり)なのか…?

 「本当に病院に行ったの…。」

 …。ん、病院?

 「病院ってなんだよ…。サクラ…。」

 「…。自分で言ったんじゃないの。病院で妊娠って言われたって…。」

 …。何のことだ…。

 「妊娠って、何のことだよ、サクラ。ダメだよ…。酔っ払っているからって、私をカラカオウなんて、百年早い…ってんだよ。分かったか。ヒック…。」

 「じゃあ、妊娠の話は…。」

 「ええっ!妊娠?何でそんなこと、サクラに言わなけりゃいけないんだよ。レディーに向かって失礼だぞ…。」

 …。どうなってるんだよ。

 「ハイハイ、分かりました。」

 「ハイは一回…、さっきも言ったでしょ。」

 …。なんだよ。変なことは覚えてるんだ。

 「ねえ、チョッと、タクシー…。このクルマ走ってんの?」

 「はい。走ってますよ。静かにですがね。」

 「走ってるのか…。ワタシは回ってるのかと思った…。」

 …。何を訳のわかんないこと言ってるんだよ…。

 「佐希ちゃん…。回ってるのはあなたの目玉じゃないの?飲み過ぎなんだよ…。」

 …。ん、確かに目が回ってきた。

 「お酒も飲めない人に、飲み過ぎとか言われたくありませんよ…。」

 …。ウッ。本当に気持ち悪くなってきた。

 「タクシー…。ちょっと暑いから、窓開けてもいいかな…。」

 「ハイ、いいですよ。寒くないですか…。」

 …。あれ?佐希ちゃん、本当に気持ちが悪いのかな…。まさか…。えーっ…。

 「佐希ちゃん、大丈夫…。」

 …。ヤバッ。こんな所で醜態をさらすわけにはいきませんよ…。

 「そんなことないよ。サクラが馬鹿なこと言ってるから…、頭を冷やしてやろうと思ってさ…。」

 …。なんだよ。馬鹿なこと言ってるのは、自分じゃないか…。どうなってんだよ…。

 「オレは、冷静だよ。飲んでないんだから…。」

 …。そうだよね…。

 「じゃあ、私が酔っ払っているとでもおっしゃるのですか?」

 …。あ~あ、酔っ払いに限って、酔っ払っていないと言う…。

 「酔っ払いとは言いませんが、多少…、普段より…、ちょっと…。」

 …。何ぶつぶつ言ってるんだよ。

 「サクラ、そういうはっきりしないところが、ダメなんだよ。ワタシには、はっきり言っていいんだよ。」

 …。はっきり言ったら、佐希ちゃん、怒るに決まっているのに…。

 「お二人さんは、仲が宜しゅうございますね。その歳といっちゃあ失礼ですが。二十歳前後の男女のように、イチャイチャ…、あっ…、いやあ、可愛らしい…。」

 「タクシー。今なんて言ったの?」

 「あ、すいません。余計なこと言っちゃって…。」

 「いや、最後になんて言ったの?聞こえなかったから、大きな声で、もう一回言ってください。」

 「いえ、だから…、可愛らしい…。」

 「ありがとう。タクシー。サクラ、他人のタクシーが可愛らしいって言ってるのに、ワタシのそういうとこ…、分かってるの…。」

 …。なんだよ。変なところで、元気になっちゃって。

 「ハイハイ、わかってますよ。」

 「ハイは一回。何度言わせるの…。」

 「ハイ…。」

 佐希ちゃんのアパートに着きました。

 「タクシー、今度指名するからね…。」

 佐希ちゃんは、ご機嫌でタクシーを降りました。

 「運転手さん…、ちょっと待っていて下さい。部屋まで送ってきますから…。」

 「あれ…、お二人さん、ご夫婦じゃなかったんで…。」

 「違いますよ。あ、ああ…、だからって変な関係ではありませんよ。誤解しないでください。二人とも独身ですから…。」

 「すいません余計なこと言っちゃって…。」

 私は、酔っ払った佐希ちゃんに肩を貸して階段を登りました。

 「佐希ちゃん…。しつこいようだけど…、妊娠って…、本当なの?」

 「まだ言ってんの。お腹が苦しくて、妊娠したようだってこと…。あら、子ども欲しいの…。お医者さんが、まだ大丈夫だって…。」

 「お医者さんの、おめでとうは、そういうことなの…。無理でしょう…。」

 「サクラ、お正月にでも頑張ってみる?」

コメント (6)
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倉内佐知子

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