都月満夫
「義姉さん、兄貴のこと長い間面倒見てくれてありがとうね。しかし、弟のオレが言うのも変だけど、義姉さんみたいな美人が、よく兄貴みたいな不細工な男と一緒になったね」
「そうよ、松子姉さん。私も不思議でたまらなかったわ。だって三姉妹で一番の美人だもの。ねえ、梅子…」
「竹子姉さん、弟さんの良二さんが言ったからって、そんなことを言っちゃ悪いわよ」
葬儀場で松子の夫、優一の通夜の儀が終わり、控室に戻って、普段着に着替え、夜食を食べながらお酒を飲み始めたときのことだ。
良二は優一の弟。優一の妻が松子。その妹が竹子と梅子だ。
「良二さんはともかくとして、梅子に竹子は言い過ぎよ。そりゃあ、いい男だったとは言えないわよ。しかし、男は顔じゃないの…」
「義姉さん、オレは兄貴から二人の出会いの話は聞いたことがないんだ。こんな夜だから話してくれないかな。なあ、梅ちゃん、竹ちゃん…。二人だって聞きたいだろ?」
「うん、聞きたい!」
竹子と梅子は、すぐに返事をした。
「何よ、あなたたち…。趣味が悪いわね。男と女のことだもの、出雲の神様のお導きよ」
「それじゃあ、出雲の神様が、お間違いになったってことですか? 義姉さん」
「なんですか、良二さん。間違いではありませんよ。立派な縁結びでしたよ」
「だから、私たちは、その間違いでない由縁が知りたいのよ。ねえ、梅子…」
「そうね、竹子姉さん」
「何よ、本当に嫌な人たち…。それじゃあ話しますよ。その前に、私にもお酒を頂戴。こんな話は素面ではできませんからね」
「あ、これは気が利かなくて申し訳ない」
良二が、湯呑をとって松子に手渡した。松子が湯呑を持つと、良二が一升瓶から酒を注いだ。松子は一口飲んで天井を見上げた。
「優一さんとは職場結婚だってことは知っていますね。あの人が、私より二つ後輩だということも知っていますね。あの人は、入社したときから、目立たない存在だった。企画立案などは全く苦手の様だった。会議で目立った発言は聞いたことがなかったから…。しかし、人には必ずいいところがあるものよ。あの人は決まったことには愚直なまでに取り組んでいたわ。誰も気が付いてはいなかったと思うけど、企画がうまくいくかどうかは、実行の段階で決まるのよ。目立たずコツコツと仕事をこなす人は、とても大事。そういう意味では、私はあの人を尊敬していたわ」
「へえ~、そうなんだ。松子姉さん以外の人も、そう思っていたのかな?」
「竹子、人はそう言うことには案外気が付かないのよ。あの人は便利に使われていたわ」
「それじゃ、松子姉さんは、その愚直さに惹かれて優一さんに声を掛けたの?」
「梅子、私は女性から声をかけるほど浅ましくはありませんよ」
「そうよね。松子姉さんほどの美人だもの、わざわざ優一さんってことはないわよね」
「何よ、梅子。そんな言い方しないで…」
「昔はね、仕事が一段落すると、決まって飲み会だった。今ほど娯楽がない時代だから、何かと言えば飲み会よ。大体三次会くらいまであったわ。あの人は、あんまりお酒を飲まないので、いつも幹事をやらされていたわ。そんな時まで、便利に使われていたわ。それでも、そんなことまで、一所懸命やる人よ」
「へえ~、兄貴が幹事ね~。そんなこと得意そうじゃないけど…」
「得意じゃなくても、やる人なの…」
「おや、義姉さんは兄貴に随分ご執心だったようですね。こいつは意外だ」
「そうじゃないわよ。客観的に見て、そういう人だったってこと…。ある時の飲み会のことよ。二次会が終わって、あの人がトイレに行ったの…。当然三次会があるから、私は待っていたわ。二人で店を出たら、誰もいないのよ。みんなが、私たち二人を置いてどこかへ行っちまった。どうせいつもの店だろうって行ったら誰もいない。『おや、今日は美女と野獣の二人連れかい』なんて、ママが冷やかした。常連で顔馴染みのお客さんたちも、ヒューヒュー言って冷やかした。当時は有線放送が店内に流れていて、「メリー・ジェーン」が流れた時だった。『ほら、チークタイムだよ。せっかく二人で来たんだ、踊りなさいよ』って、ママに言われてさ。お客さんたちも悪乗りして、催促するし、二人で踊ったわよ。手を握ったのは初めてだった。そしたら、あの人急にもぞもぞしてさ。『あれ、優ちゃん。腰つきが変だよ。もしかして、元気になっちゃった』なんて、お客さんに冷やかされた。恥ずかしくて、店を出たよ」
「兄貴、興奮したんだ。綺麗な人だもの、ムラムラしちゃったんだ。初心だったんだな」
「まさか、初心だなんて…。『中学生じゃないんだから、恥かかせないでよ。どうしてくれるのよ』って言ったら、あの人が、『一人ではどうにもできません』って…。はあ? 何言ってるの? って思ったわよ。だけどその時、年上の私の母性に火がついたんだよ。愛おしいて思ったんだよ。火がついた本能は止められない。…で何とかなっちゃった」
「なあに、松子姉さんたちって酔った勢いでそうなったってこと…。姉さんらしくない」
「私だって驚いたよ。あれはさ、多分、出雲の神様の悪戯だったと、私は今でも思ってるよ。何はともあれ、結ばれたってことさ」
松子は湯呑に残った酒を飲んだ。
「いざ、結婚してみるとね、出雲の神様の悪戯もまんざらではなかったわよ」
「そうだね。兄貴には出来過ぎた嫁だったことは間違いない。実はね、当時はオレも両親も、あまりに不釣り合いの二人だったんで、うまくいくのかって心配したもんだよ」
「そんなことないわよ。あの人は、いつも感謝の言葉を忘れないで言ってくれた。わがままで怒ってばかりの私に、『ありがとう』と『大好きだよ』を毎日言ってくれてさ。ご飯を作ったり、お風呂を沸かしたり、普通の日常生活のひとつひとつを、いつも感謝の言葉にして言ってくれる。この心くばり、長く一緒に生活していくうえで、とっても大事だって思ったもんだよ。私を誰よりも大切にしてくれる。本当にありが卓思っていたよ。子どもたちにも、『お母さんを大切にしないとバチが当たるから…』って言ってくれて嬉しかった。大切にされると、相手のことも大切にできるもんだよ」
「そりゃあ、こんな美人と一緒になれたんだから、大切にしないとさ…。それこそ兄貴はバチが当たるよ」
「それに、あの人はいろんな事に詳しくて物知りだった。色々教わったよ。その上、子煩悩で、子どもが可愛くて仕方ない様子でさ。そんな姿を見るのが、私は大好きだった」
「あらあら、姉さんったら、とんだのろけ話だわね。ねえ、梅子…」
「竹子姉さんの言うとおりだわ」
「そうだな。兄貴の息子二人は義姉さんに似て可愛かったからな。兄貴に似た女の子でなくて良かったよ」
「良二さん、そんなことはありませんよ。親にとっては、どんな子でも可愛い…。あなただって、そうでしょ。それに、どんな時も、文句を言わないでいてくれた。どんな手抜きの晩ご飯でも、文句を言わないで食べてくれる。『あなた…ありがとう。おかげで何不自由無い幸せな生活を送れています』って、いつも思っていたよ。そんなあの人は、私にとっては世界で一番カッコイイ男だった」
「あら、自分の旦那さんをカッコイイと言えるなんて、松子姉さんもカッコイイわ~」
竹子が冷やかした。
「カッコイイんだからしょうがないわよ。それだけじゃないわよ。仕事から帰ってきて疲れているのに、ご飯を食べ終わると、嫌な顔をせずに洗い物を手伝ってくれる。隣で眠れる毎日が幸せ。 本当に大好きだったよ」
「あらあら、誰よ…。こんな話を姉さんにさせたのは…。止まらないじゃない」
梅子が良二の方を向いて言った。良二は、オレのせいじゃないという顔をして、首を振った。しかし、松子の話は止まらなかった。
「いつも、休みは家族優先。 疲れたなんて愚痴をこぼしたあの人を見たことがない。笑顔のあの人が大好きだった。相手が笑顔でいてくれると、つられてこっちも笑顔になっちゃうもんだよ。結婚して良かった、あの人と出会えてよかった。結婚するまで疑心暗鬼だった私に安心感を与えてくれた。愛情表現をいっぱいしてくれた。心から信頼できる人ができるって素晴らしいことだよ。記念日を大切にしてくれるマメさで、愛されていると実感できた。決してお洒落でスマートとは言えないけれど、不器用なまでにマメでさ。とにかく、全部大好きだった。全て好き。イビキすら可愛いと思ったもんだよ」
「え~、イビキまで可愛いだって…。梅子、信じられる? イビキだよ」
「信じられないわよ、竹子姉さん…」
「それにさ、私がたまに熱なんか出すと、桃の缶詰めを買って、大急ぎで仕事から帰ってくる。何でも、自分が小さいころは熱を出すと、母親が桃缶を買ってくれたそうだよ」
「そうそう、そうだよ。オレも買ってもらったことがあるよ。決まって桃缶だった」
良二が思い出したように言った。
「そして、卵入りのお粥を作ってくれる」
「あ、そうだよ。それも、お袋がやってくれたよ。兄貴はそんなことまでしてたんだ」
「良二さん、お酒! 気が利かないね」
「おや、義姉さん、随分いける口ですね」
「いける口? 飲ましたのは誰だい。良二さん、あんたじゃないのかい」
「あれ、雲行きが怪しいよ。おい! 息子たち。ちゃんと蝋燭と線香の番をしてるか? お前たちの母さんは、絶好調だよ」
「ちょっと、良二さん。お酒がないよ」
「あ、義姉さん、すみません。おい、そこの妹のお二人さん。あなたたちのお姉さまは、こんなに呑兵衛だったのかい?」
「知らないわよ。ねえ、梅子」
「私だって知らないわよ、竹子姉さん」
竹子と梅子は顔を見合わせ、良二の方へ視線を送った。もう、呆れたという表情だ。
「大丈夫なのかな、義姉さん…」
「あんたたち、何をごちゃごちゃ話してるんだよ。あのさ、五十年近く一緒にいるとね、いいところも段々鼻についてくるんだよ」
「おや、話が変わってきたよ。梅子…」
「竹子姉さん、本当だね。目が怖いよ」
「あの人が定年退職して、家にいるようになると、一日中私の側にいる。もう、息子たちは独立していたから、私しかいない。何か他にすることはないのかって言うんだよ。趣味の一つもありゃしない。カラオケでも習えばって言っても、『おれ、音痴だから』だって…。何でもいいよ。たまには家から出ろってんだよ。『じゃあ、映画に行こうか』って、私を誘う。結局一緒じゃないか…」
「義姉さん、いいじゃないですか、仲がいいんだから…」
「そりゃあさ、仲が悪いよりはいいかもしれないけれど、四六時中一緒じゃ息が詰まるってもんだよ。現役の時は、昼間はいなかったから気にならなかったけど…」
「松子姉さん、さっきまでとは話が違うよ」
「さっきまで? さっきまでどんな話をしていたって言うんだよ。え、竹子…」
竹子と梅子は、姉の豹変ぶりにお手上げ状態だった。こんな姉は見たことがなかった。
「だいたいね。私が二時間かけて作った晩ご飯を、たった五分で食べちまって、『美味しかったよ』なんて言われたって…。美味しいんなら、もっと味わって食べろってんだよ。自分が食べ終わったら、早く片付けたいもんだから、人の前に座ってジーっと見てる。私はね、ゆっくり食べたいんだよ。お酒でも飲めば、もう少しゆっくり食べるんだろうが、酒も飲まないからね、あの人は…」
「あのね、松子姉さん。酒飲みなんか大変だよ。いつまでも、だらだら座って飲んでるから、片付ける訳にもいかない。ねえ、梅子」
「そうだよ。竹子姉さんのとこもそうなのかい。松子姉さん、酒飲みなんかロクなもんじゃないよ。私たちからしたら、羨ましいよ」
「何が羨ましいもんかよ。私が食べ終わるや否や、待ってましたとばかり片付けだよ。片付け終わると、ちゃんと隣に座ってる。ニュースを見ていると、いちいち解説をする。歌番組を見ていると、調子っ外れで歌いだす。バラエティー番組を見ていると、ゲラゲラ笑いだす。静かに見ろってんだよ。それで、九時を過ぎたら歯磨きを三十分もして、とっとと寝てしまう。私が寝る頃には、グーグーイビキをかいて、うるさくて寝られやしない」
「あら、さっきまでイビキまで可愛いって言ってたのは誰だったかしら? 良二さんも、竹子姉さんも聞いてたわよね」
「何がイビキまで可愛いだよ。そんなことを言う人の顔が見たいよ。グーグーだけならまだしも、途中で止まるから厄介だ。このまま息をしないんじゃないかと、心配になって寝られやしない」
「あら、やっぱり心配なんだ」
「そりゃあ心配だよ。心配したら悪いって言うのかい」
「オイオイ、悪い酒だな」
「何、悪い酒だ。だったら、もっといい酒を持っておいでよ、って言うんだよ」
「本当に酔っちまったわ。松子姉さん、もうそれくらいで止めたら…」
竹子が言った。
「止めろだって。せっかく調子が出てきたのに、今さら止められるかってんだよ」
「梅子、何とかしなさいよ」
「いやよ、竹子姉さん。飲ませたのは良二さんなんだから…」
「あれ? オレのせいにするのかい? 二人だって聞きたいって言ったじゃないですか」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだよ。良二さん、あんた飲んでるのかい? 私にばかり飲ませておいて、なんだい。飲みなさいよ」
「ハイハイ、分かりましたよ」
「ハイハイってね、ハイは一回でいいの…。親に教わらなかったのかい?」
「ハイ。教わりました」
「教わったんならそうしなさい。昔は、物知りでいい人だったけど、二人っきりになると違うね。クイズ番組を見ていると、直ぐに解答を言って得意顔だよ。私はテレビを見てるんだ。あの人の解答が聞きたいわけじゃないんだ。静かに見させろってんだよ。私が具合いが悪くて寝てると、テレビを見て、ゲラゲラ笑ってる。昔は心配してくれて、優しかったのにさ。『もっと静かに見なさいよ』って言うと、『ゴメン』と言うだけで、静かになんかなりゃしない。変な時にさ、『おい、大丈夫か?』なんて声を掛ける。今ちょうど寝たとこなんだよ。起こすなっちゅうんだよ」
「義姉さん、まるで夫婦漫才ですね」
「何が夫婦漫才だよ。あんな人は、私は大嫌いだよ。私にまとわりついて、うるさいったらありゃしない。年相応の静かな暮らしってもんがあるだろうよ。そうだろう良二さん」
「ああ、うん」
良二は、曖昧にうなづいた。
「大体ね、私より早く逝くなんて、十年早いってんだよ。邪魔くさくて、うるさくて大嫌いだったよ。だけど、私はもう少し大嫌いでいたかった。もう、大嫌いなあの人は、いないんだよ。本当に大嫌いになっちまったよ」
松子の顔は、涙でぐしゃぐしゃになった。
したっけ
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ハーブティーは下記のお店「雑貨(Tkuru&Nagomu)で取り扱っていま
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↑:友人がオーナーの店です
私の一押しの詩集を紹介します。現代女性詩人のトップクラスの詩を感じてください。魂が揺さぶられます。これは倉内佐知子の入門としては最適な詩集です。一度読んでみて下さい。
涅槃歌 朗読する島 今、野生の心臓に 他16篇 (22世紀アート) | |
倉内 佐知子 | |
22世紀アート |
〈溶ける魚〉が背を這いずり、異国の香りが鼻腔を抉る、無頼の詩語は異界をたゆたい、イデア(idea)の入り口を探る——「幼年の濃い光の中で 時間の臓器は待っている」(本文より)心地よいリフレインが幻惑の世界へと誘う「音更日記」、言葉の配置と表現形式にこだわった「光る雪」、グロテスクな言葉の暴力で異質な世界を構築した「青」など計18篇を収録した、小熊秀雄賞受賞詩人の詩集。言葉が持つ魔術的な美を、無意識の泉から掬い上げた、幻想的かつ根源的な一冊。
海鳩
―潮騒が希望だったー
ぐしゃぐしゃに砕かれた大顎の破片が散乱し
ているのは知っていたがここのものではない
さんざん悪質を通過しなお何ものとも繋がら
ない兵器的非感覚の海を死生の循環の内へと
流し込むなど可能かぶふぅィ暫し棘状の海塚
にうずくまりわたしたち固有の肉体がはぜる
記憶のふあんに堪える堪えて噛む海鳩が翔ぶ
〈母ァさん 母ァさん〉
あなたさえ答えようもないのです
(後略)
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それはそうですね。
書いてる人間が昭和ですから・・・^^
したっけ。
実に良いですねぇ。
雰囲気がなんとも心地よいです。
そう言ってくれると嬉しいです^^
したっけ。
切なくてかわいいですね。
もっともっと一緒にいたかったでしょうね。
口ではなんやかんや言いながら、やっぱり好きってありますよね^^
したっけ。