団塊オヤジの短編小説goo

Since 11.20.2008・時事ニュース・雑学・うんちく・豆知識・写真・動画・似顔絵師。雑学は、責任を持てません。

おとうさんのただいま

2009-02-10 13:51:26 | 童話

おとうさんのただいま

都月満夫

「いってきまーす。」

一年生のヒロ君は、このところ毎日お父さんにそう言って、小学校へ登校します。

「ただいまーッ。」

学校から帰ってきた時も、お父さんにそう言います。

「お帰り。今日も楽しかったかい。」

お父さんはニコニコして迎えてくれます。

夕方になると、ヒロ君とお父さんは毎日晩ごはんの支度をします。

「ヒロ君、今日もお手伝いたのむよ。」

「はーい。」

「今日はホイコーローを作ろうか。」

「なーに、それ。」

「中華料理だよ。豚肉とキャベツの辛みそ炒め。」

「それって、おいしい。」

「おいしいよ。まず、豚バラ肉とキャベツを食べやすい大きさに切って、湯どおしをしまーす。」

「湯どおしって、なーに。」

「料理の下ごしらえでね、材料をお湯で茹でて軟らかくしたり、くさみやあぶら気を抜いたりすることだよ。」

「下ごしらえって、なーに。」

「下ごしらえっていうのは、お料理を手際よく作るための準備のことだよ。お湯が沸いたら、キャベツ湯通し、しまーす。」

「湯どおし、しまーす。」

「キャベツ終わりましたので、お肉を湯どおし、しまーす。」

「お肉を湯通し、しまーす。」

「次は、フライパンにサラダ油を入れます。ニンニクとショウガのみじん切りを入れて香りを出しまーす。」

「香りを出しまーす。」

「ピーマンを炒めまーす。今日はヒロ君の嫌いなナスは入れませーん。」

「入れませーん。」

「ヒロ君、お肉とキャベツを、入れてください。そこに切ってある長ネギも入れてください。」

「はーい。」

「では、お酒を少し入れまーす。」

「お父さん、お酒を入れたら、ボク食べられないよ。酔っ払っちゃうから…。」

ヒロ君はあわてて言いました。

「だいじょうぶだよ。フライパンで煮るとアルコールが蒸発してお酒のおいしさだけが残るんだよ。」

「そーか。では入れまーす。」

「鶏ガラスープ入れます。お砂糖少しとテンメンジャン入れます。お醤油も入れまーす。」

「お父さん、いっぱい入れるね。」

「そうだよ。材料や調味料を入れるときは、おいしくなーれ、おいしくなーれって、思いながら入れるんだよ。そうすると、野菜やお肉も、おいしく食べて欲しいなって思うからね。」

「本当なの。」

「本当だよ。勉強するときだって、勉強したいな、おぼえたいなって、思いながらしたほうがよく頭にはいるんだよ。」

じゃあ、ボク、今度から、そうする。」

「最後にトウバンジャンを入れまーす。これは辛いから、少しだけ入れまーす。」

「少しだけ入れまーす。」

「はい、できあがり。」

ちょうどその時、ヒロ君のお母さんがパートから帰ってきました。ヒロ君はすぐに報告に行きました。

「お母さん、今日はホイコ…。えーと…。」

「ホイコーローだよ。」

お父さんがそっと教えてくれました。

「ホイコーローを作ったよ。おいしくなーれ、おいしくなーれって言ったから、きっとおいしいよ。」

奥の部屋からおばあちゃんも出てきて、四人で晩ごはんが始まりました。

「最近はヒロ君とお父さんがおいしいものを毎日作ってくれるから、お母さん太っちゃった。」

お母さんが笑います。ヒロ君もお父さんと作ったお料理を、お母さんやおばあちゃんがおいしいって食べてくれるのがとても楽しみです。でも、ヒロ君には、お父さんが少し寂しそうに見えます。

お父さんの会社が倒産したのは、三ヶ月くらい前です。それまでは、お父さんがヒロ君に

「行ってくるぞ。」

と言って出かけていました。晩ごはんはパートから帰ってきたお母さんが急いで作っていました。だからヒロ君はお手伝いできませんでした。

そのうちにお父さんが帰ってきて

「ただいま。ヒロ君、今日もいっぱい遊んだかい。楽しかったかい。」って聞いてくれていました。

ヒロ君はお父さんと一緒に、お話をしながら晩ごはんを作るのが大好きです。

「ただいまーッ。」

会社から帰ってきて、大きな声で言うお父さんの声のほうがもっと大好きです。

ヒロ君は、早くお父さんのただいまが、また聞きたいと思っています。

でも、お父さんには、言いません。お父さんだって、そう思っているに違いないからです。

お母さんだって、お父さんに、晩ご飯を作ってあげたいに違いありません。

「うまいな。おかわり。」

大きな声で言うお父さんの声のほうが、好きなんだと思います。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 酢豚に入っているパイナップ... | トップ | 何の変わりもなく »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
現代の世相が反映されていますね。 (蜜柑の花)
2009-02-14 10:12:40
現代の世相が反映されていますね。
以前の不況時期も、家で主夫している人多かったです。

 この作品は絵本にする感じですね、手作り絵本コンクールなどもありますから、そういった創作も楽しいかもしれませんね
 児童書でしたら、作品の中のお祖母さんの役割、位置にも一工夫するといいかもしれませんね。
 
 …こんなのでどうでしょう。[E:coldsweats01]
返信する
こんにちは (沙羅双樹)
2010-04-26 19:51:17
こんにちは

地下鉄サリン事件の年ですから、十五年前になります
失職していました

失業中というのは、とても辛いものでした
長女がちょうど中学に入学する時で、学校へ提出する書類の
「父親の職業」の欄に、「無職」と書かざるを得ないというのは
長女にも、他の家族にも申し訳なくて.....
それも、会社の倒産ではなく、ある日突然社長によばれて、「君
は、明日からいいよ。他の仕事を探してくれ」と宣告されてのこ
とだけに、もちろん原因は、私のほうにあっただけに失業の辛さ
は、格別だったと記憶しています

それまでは、

  「家族が暮らしていけるように」
  「リストラされない立場に立てるように」

の名のもとに、家族、子育てをも顧みず、休みもろくに取れない
ほどに、働きづめでした
子供の顔は、寝顔しか見たことないに近い状態でした
自分では、一生懸命努力していたつもりでしたが、それは、自分
だけの独りよがりでした

「おとうさんのただいま」
ヒロ君は、とても明るく育っていて、きっと「おとうさん」は、
私のような仕事にばかり向かっていないで、家族ときちんと向き
あってきたのでしょう
読んでいて、とても明るく、うらやましく感じました

ヒロ君の大好きな「おとうさんのただいま」は、私には、いまま
で、仕事ばかりして遊んでくれなかったおとうさんが、失業を期
に、家庭に目を向け、家族と接するおとうさんが帰ってきた、
その「ただいま」のように感じてしまいました
私が、そうだったように

小さい子供は、おとうさんが大好きなんです
だから、一緒に夕ご飯を作るなんて、子供にとってはうれしくて
しょうがないのです
家庭、家族の象徴は、なんといっても子供です
だからこそ、「お父さん」と「ヒロ君」接している日常が強く
描かれているのでしょう

考えすぎでしょうか

               沙羅双樹より






返信する
パパと子の暖かい触れあいが実は悲しい現実の上に... (ねこん)
2010-05-27 21:27:24
パパと子の暖かい触れあいが実は悲しい現実の上にあったのですね。切ないお話でちょっと泣けました。
返信する
おはよぉございまーーす[E:sun][E:shine] (chuu)
2010-06-01 10:49:06
おはよぉございまーーす[E:sun][E:shine]

子供ゎ どんなに幼くても よく見ているもの・・・

大人のよぉな言葉の表現ゎ出来なくても、感じた何かをその子なりの表し方で 表現しているはず。

見落としてゎいけないと 母として常に目配せしているつもりでいても、忙しい日常の中・・・・

ふと 一呼吸置いて 我振り返ろぉと思った作品でした[E:confident]
 
返信する
Unknown (由美太っ)
2014-10-10 02:15:00
この1週間と2日。。。全く食べ物を一口もすることなく半死状態でおりました・・・。

暖かく築いてきたはずの家族・・・なはずだったのに
こんな半死の妻=私をよそに・・・家庭崩壊するまでの事が起こり、娘と2人で悩んでいる最中で・・・
このタイミング!
・・・この「パパ」のお話を読んでいたら
なぜか、なんだか・・・涙がボロボロ落ちました。。。

こんなパパが欲しいなぁ・・・(T∀T)(爆;;;)
返信する
★由美太っさん★ (都月満夫)
2014-10-10 07:59:27
それは大変でしたね。食欲は戻りましたか。
元気になってくださいね。
これは仕事が忙しく家になかなか帰れない状況で書いたものです。自分の夢でした。
失業でもしなくてゃ無理かな~と言うことでこの設定です。
私、料理大好きなんです。
読んでくれてありがとう^^
したっけ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

童話」カテゴリの最新記事