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出産請負会社

2009-03-31 13:37:30 | 短編小説

都月満夫

 

 

 

 

 

 

そう遠くない未来。企業は景気悪化のため、人材を切り捨て、生き残りを求めた。

派遣社員を切り捨て、パート社員を切り捨て、契約社員を切り捨てた。

工場を閉鎖し、店舗を閉鎖し、企業には、仕事をしない男性社員だけが残った。

彼らは、上がってくる書類にハンコを押して、現場に苦情を言うことしか出来なかったのだ。今や、苦情を言う相手さえいない。

そうして、今まで、派遣社員、パート社員、契約社員たちのお陰で、自分たちが、高い給料をもらっていたことに気づいた。

 

残った男たちの、争いが始まった。あの有能だった社員たちを、呼び戻さなければ、企業は生き残っていけない。

各派に別れ、男たちの生き残り合戦が始まった。そして、三分の二が企業を去った。

残った男たちは、女性の派遣、女性のパート、女性の契約社員を、こぞって採用した。 女性のほうが賃金を抑えられるという、以前の概念そのままの、安易な発想であった。

女性たちの働きぶりは、以前にも増して、懸命であった。家計を守るために、必死であった。女性は男たちを乗り越え、企業のトップを目指すようになっていた。

 

もう少し遠い未来。女性たちが、企業を運営していることが当たり前になった。男性は昔の女性たちのように、お茶汲み、掃除、コピーなどをして勤務していた。

一定の年齢になると、嫌がられ、若い男性へとの入れ替えがはかられる。

「何々君、あなた彼女はいないの。もうそろそろ結婚したほうがいいわよ。」

「彼女も出来ない男なんて、使い物にならないわよ。」

などと、あからさまに言われる。

「彼女いないの?だったら、今夜私と付き合いなさいよ。」

 デブで腋毛のはみ出した部長に誘われたりしたら、最悪である。

 セクシャルハラスメントで、訴えを起こす男性が、激増した。通勤のモノレールでの痴漢行為も、被害者は男性になった。

 しかし、女性がセクシャルハラスメントなんて…。あなたの妄想では…。

痴漢行為に対しても、ぴちぴちのパンツを穿いて、誘惑したんじゃないの。などと言われ、殆ど敗訴になる。

 裁判長も裁判員も女性ばかりだ。

 裁判員制度発足時は、育児は辞退の理由にならなかったが、現在は認められている。

 それは、女性社会では、男性が育児を担当する。育児の大変さは、女性が十分理解している。男性が裁判員になるのも煩わしい。

 世帯主は妻であり、男性は夫に過ぎない。

 そして、父子家庭なる言葉が誕生し、福祉保護の対象となった。

 男性は、料理、作法、家事、育児などを勉強するようになり、その種の教室は大盛況であった。いい婿殿になるために、必死であった。

数十年前の過去、女性たちは、働くことに喜びを見出した。男たちのいない社会で、思い通りに働ける喜びと言っていいだろう。

 

 それから、さらに数十年後の未来。女性たちは、総ての分野において、トップを占め、女性社会が成立していた。

 

 そして、当たり前のように必要となり「出産請負会社」なるものが誕生した。

 働く女性たちには、妊娠している暇などない。妊娠を代行し、乳母を代行する会社である。当然この代理母、乳母はそれぞれの国家資格を持ったものに限られる。

 これも、働く女性たちの、新しい仕事の一つである。

 子供の欲しい夫婦は「出産請負会社」に出向き、代理母を選択する。一次は写真選択、二次は面接の順で選ばれる。話し合いで、両者の合意を得て、初めて契約は成立する。

 選択の主導権は当然女性にある。女性たちの選択基準はまちまちである。

しかし、選択基準は必ず自分である。自分より容姿の優るもの、劣るもの。能力の優るもの、劣るものなどである。ほとんどの女性は、自分より少し劣る代理母を選択する。

これは、夫との接触が増えることへの、配慮だと思われる。

 こうして、代理母を決定すると、産婦人科へ行く。体外受精された受精卵を代理母の子宮に定着させ、出産を待つことになる。

 代理母は、既婚、未婚に関わらず、毎日依頼者の自宅に出勤し、夫に父となる心の準備などを実感させる。

 出産を終えると、そのまま乳母として、乳離れまで、契約を継続するのが普通である。

 中には、母乳の出が悪い代理母もいる。その場合は、乳離れを終えて尚母乳の出ている乳母に依頼することもある。

 しかし、総ての女性が、代理母を利用する訳ではない。低所得者は、当然この長期契約の支払は出来ない。自分で産むか、産まないかの選択を迫られる。産む場合は、夫がパートに出て家計を支えることになる。

 

 しかし、世の中、表があれば、裏もある。当然、潜りの業者が存在する。これは国家資格を持たない女性に、代理母をやらせ、潜りの医者に体外受精を依頼する。

 子供が欲しいが、体外受精を依頼できない夫婦。妻は、潜りの代理母を選び、夫との直接性交により、受精させる場合もある。

この場合、性交には妻が立会い、生殖行為のみ行うのが、通例である。

 

 本木雅子、三十五歳。夫涼一、三十八歳の夫婦がいる。彼らは妻の僅かな給料で、慎ましく、仲良く暮らしていた。

「ねえ、涼一。私、涼一の子供が欲しい。」

「欲しいって言ったって…。俺だってほしいけど、金はないよ。」

「裏の代理母を見つけたのよ。まだ、若いけど…。その子お金がなくて、安くても、引き受けてもいいって、言ってるのよ。」

「若いって、幾つだよ?」

「十八だって…。」

「そう、独身だって、言ってたわ。」

「医者はどうするんだよ。」

「いいのよ、私、あなたの子供が欲しいんだから、直接で…。」

「直接って…、雅子、見てるんだろ、そんな若い女と、俺がしてても大丈夫なのかよ?」

「いいわよ。」

「出来るかな…?緊張するな。」

「大丈夫よ。どうしても、出来ないんだったら、私、見てなくてもいいから…。」

 

 二人の子作りが始まった。代理母としてやってきたのは、深田清子、十八歳。歳の割りに、大人びていて、可愛いグラマラスな女性であった。

 最初の夜、清子の排卵日である。上半身は服を脱がない規則である。

 自分の妻が見ている上、魅力的な女性であったため、涼一は緊張のあまり、挿入には、至らなかった。何日か、試みたが同じであった。

「分かったわ、私がいると、気が散るのね。私が残業の日、二人で頑張って…。同じ屋根の下で、二人がしているのは、辛いから。」

 

「私の帰りは、九時過ぎになるから、それまでに終わらせといてね。」

 今朝、雅子は、そう言って出かけた。

午後六時に清子がやってきた。

「今夜、何時まで?」

清子が尋ねた。

「九時まで…。」

「そう、じゃあ、頑張ってね。お風呂かりるね。」

 涼一は、六時前に風呂に入っていた。

「ねえ、涼一さん、奥さんに内緒で、上も脱ごうか。いつまでも、ここに通ってるのも、ヤバイしさ。そのほうが、いいんじゃない。」

「それはちょっと…。雅子にバレルと困るし…。」

「大丈夫よ。二人が黙っていれば、分かんないことなんだし…。」

「でも、それは違反だし…。」

「なに言ってんのよ。私に頼んだ時点で違反じゃない。大丈夫よ、前にもやってるし…。」

「じゃあ、そうして貰おうか。追加料金なんて言わないだろうな。」

「言わないわよ、私から申し出たんだから。」

 十八歳の清子の肉体は素晴らしかった。私は子作りなど、すっかり忘れて、直ぐに果ててしまった。

「ダメじゃない。こんなんじゃ、妊娠しようがないわよ。頑張って…。」

 私は再挑戦し、結局、三度も射精した。

 八時半を過ぎたので、二人はベッドから離れた。シーツに赤い染みが残っていた。

「君…。」

「そう…。私、初めてだったの。」

「さっき、前にもやったって…。」

「だって、そうでも言わないと、本木さん、出来そうもなかったから…。」

 

 九時を過ぎて、雅子が帰ってきた。

「奥様、お帰りなさい。今夜は、旦那様が、頑張ってくださいまして、何とかうまくいきました。シーツを汚してしまいましたが、お許し下さい。後は妊娠したかどうかですね。」

「あなた…、初めてだったの?」

「ハイ。気になさらないで下さい。どうなさいますか?妊娠を確実にするために、奥様が協力していただけるなら、何日か通いましょうか?」

 雅子は、清子が処女だったことに、動揺していた。

「そうね…、そうね、あなたさえ良ければ、そうして貰うわ。又連絡するわ。」

 二人は、その後何度か、妻のいない関係を持ち、涼一は清子に溺れた。清子は歓喜の声を上げ、涼一を興奮させた。

 お陰で、清子は何とか妊娠した。

清子は妊娠後、週に一度、涼一の家を訪れた。正規の代理母の場合は、毎日訪れることになっているが、裏の代理母なので仕方がない。ひどい場合は、出産間近まで訪れないというから、まだ良心的なほうである。

おまけに、訪れるたびに、関係を持ってくれる。清子の膨らんでいく、お腹を労わりながら、行うセックスは、父親になる喜びに溢れていた。正規の代理母でなくて、良かったと涼一は思った。

 

やがて、二人は可愛い女の子を授かった。「真央」と名づけた。涼一は、父親としての喜びを、満喫する毎日であった。雅子は、乳母も引き続き、清子に依頼した。授乳期間は、赤ん坊は、四六時中乳母の下に預けられる。夜間の授乳があるので、そうなっている。しかし、日中は依頼者の自宅で過ごさなければならない。その間、乳母は授乳以外、行わない。オムツ替えや、その他の世話は両親の仕事である。

雅子の休みの日も、真央の世話は、涼一の仕事である。雅子は可愛い、可愛いと抱き上げたり、あやしたりしている。

清子の授乳の時は、母親は見てもいいが、父親は見てはいけないことになっている。

しかし、雅子のいない日は、いつも涼一の前で、清子は授乳している。

清子が胸をはだけて、大きく張って血管の浮いた乳房を出し、我が子に乳を与えている姿は、とても愛おしい。

涼一には、もう分からなくなっていた。自分の妻は誰なんだろう。今、清子の乳房を吸っている、幸せそうな我が子は、誰の子なんだろう。自分は雅子を愛していると言えるのだろうか。

涼一は、我が子が乳離れせずにいてくれたら…。清子と過ごす時間がこのまま続いてくれたら…。そう思い始めていた。

 

雅子は、仕事から帰ると、ご飯を食べて、お風呂に入って、メール新聞に目を通して、寝てしまう。たまに、涼一が求めると「疲れてるのよ。わかってるでしょ。」と取り付く島もない。

自分だって、毎日毎日、掃除、洗濯、育児。ご飯支度などで忙しく働いているのに…。

雅子とは、いつセックスしたかも、覚えていない。こんな状況で、清子に惹かれる自分は、間違っているのだろうか。あんなに、俺の子が欲しいといっていた、優しい雅子は何処へ行ったんだろう。

やっぱり、直接行為で子供を作ったのは、間違いだったのだろうか。

清子が、真央を見つめる眼差しは、優しい母親そのものに見える。しかも、真央の両親は、紛れもなく、涼一と清子だ。清子が真央を離さないと言い出したらどうしたらいいのだ…。不安と恐れと良心の呵責に耐えられるのだろうか。

何よりも、涼一は、清子を愛しているのではないのか。でも、雅子と離婚することは出来ない。清子とのことが、発覚したら、離婚されるのは、涼一のほうだ。そうなったら、真央はどうなるのだ。

涼一の中に、毎日毎日、不安と恐れが生まれ、増え続けている。

清子は毎日、真央を連れてくる。清子が真央を涼一に見せる仕草は、まるで妻のように優しい。

真央は日ごとに可愛らしさを増し、涼一を見ると笑ったり、手を差し出したりする。目をクルクル回して、涼一を探す。

清子が真央を抱きかかえる姿は、この子は私の子よ。そう主張しているように見える。

涼一さん、何とかして…。この子は、あなたと私の子供なのよ。そう言っているような気がする。

涼一が、清子を好きだと言った瞬間に、雅子との結婚生活は終わるだろう。そうなったら、どうやって、生活していけばいいのだ。

清子は口が裂けても、自分からは言える立場ではない。

 

時は無常に過ぎて行き、別れの日、乳離れの日がきた。清子は二人に、話を始めた。

それは、意外な内容だった。

「本木さん、これからもお世話になりますので宜しくお願いします。実は涼一さんとの受精行為の時に、暴行を受けました。上半身を無理やり脱がされ、行為に及んだのです。受精後も、不必要な行為を強要されました。授乳時も、彼はいつも見ていました。母乳を吸われたこともあります。これらは総て、ブルーディスクに録画してあります。月々僅かで結構です。ご援助下さるようお願いします。」

「君は処女だったんでは…。」

「そんなこと、信じてたの、馬鹿ね。」

 深田清子は、仕事のない若い女性を雇い、依頼主を恐喝するグループ「窓女」(まどんな)の、女首領だったのだ。

 

 小学三年生になった真央と涼一はテレビを見ながら、雅子の帰りを待っていた。

 テレビでは、若くして、社長となった女性の特集を放送していた。

『出産請負会社「マドンナ」の美人社長、深田清子さん、どうぞお入り下さい。』

涼一はテレビを見て、愕然とした。

「パパ、あの人綺麗だね。真央のママも、あの人だったらよかったのに…。」

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