すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

久しぶりのコンサート

2020-07-26 22:09:02 | 音楽の楽しみ
 サントリーホールに、東京交響楽団の演奏会を聴きに行ってきた。1月末に日本フィルを聴きに行って以来だから半年ぶりだ。当初の予定はマーラーの5番ほか、だったのだが、ベートーヴェンの3番と、ストラビンスキーのハ調の交響曲になった。しかもハ調は指揮者なし、3番はコロナ感染拡大でビザが発給されず来日できなくなったジョナサン・ノットがビデオ出演で指揮するという。
 夜の公演を昼夜に分けて客席は一つ置きだそうだ。感染が再拡大している時期だし、行こうかどうしようかとずいぶん迷ったのだが、「サントリーみたいな大ホールは天井が高いし換気も十分にしているから大丈夫だよ」という、一緒に行くことになっていた友人の意見と、「クラシックは生演奏に勝るものはない」という別の友人の激励で、行くことにした。ビデオで指揮、って、どんなだか、大いに興味もあったしね。

 ストラビンスキーは、有名な「春の祭典」や「火の鳥」は聞いたことがあるが、「ハ調の交響曲」というのは初めてだ(もともと、クラシックのコンサートに頻繁に行く余裕はない)。
 席はステージ後ろのP席だ。コンサートマスターが弾き振りっていうか、弾きながら合図をするのだが、その合図がよく見えて面白かった…のだが、演奏は集中というか、まとまりを欠いたもののようにぼくには思えた。席が演奏者に間近なので左右に広く、きょろきょろ目移りしながら聴いていた。目の前が金管なので、やや強く感じたがこれはまあ仕方がない。
 一緒に行った友人、これは本格的に指揮の勉強をしたことのある、音楽の造詣の深い玄人だが、に休憩時間に、「あれは集中が足りないのか、もともとそういう曲なのか」、と訊いたら、「もともとそういう曲なので、演奏は非常にしっかりしているよ」とのことだった。

さて、つぎは「英雄」だ。休憩にロビーに出てホールに戻ったら、舞台の真ん中、本来指揮者のいる場所に画面が4方向に立てられている。団員が席について音合わせがすんだら画面が明るくなってノットが現れた。拍手していいのだろうか、というようなあいまいな拍手が起こる。彼の身振りに従って団員が立ち上がり、また座るので、客席から和やかな笑い声が聞こえる。だが、ノットが指揮棒を大きく振って演奏が始まったとたん、思わず息を呑んだ。
 最初に和音が二つ大きく短く鳴って、チェロの低音の耳馴染みのある第一主題が始まる、その冒頭の瞬間からぼくの目は画面のノットに釘付けになった。過去にこの曲をやっているには違いないが、今回としては一度も対面での練習はしていないのに、オケを一糸乱れずまとめ上げるすごい統率力。ピッタリ息を合わせてついていくオケもすごい。
 それにしてもこの人はどうやって、目の前にいないオケのそれぞれのパートにこんなに的確に身振りによる指示がだせるのだろうか? そもそもこの映像はどのようにして撮影されているのだろうか? 実際に鳴り響く音がなくても、自分のうちにある音だけでこのような指示ができるのだろうか? それともオケの代わりに二台のピアノぐらいに演奏させているのだろうか? それだけでオケの指示が出せるのだろうか? 
 第二楽章の静かな葬送行進曲が始まってやっと、指揮を見ながら演奏者をも見ることができるようになった。暗い悲しいものを好む傾向のあるぼくは、このヴァイオリンに始まる足を引きずるようなハ短調の葬送の主題が大好きだ。途中で転調してオーボエ始まるやや明るい中間部が、雲の切れ間の青空のように響き、それからまた暗い主題に戻って、最後は切れ切れになった記憶のように終わる。
 第三楽章の始まる直前に、コンマスがオーボエに音合わせの音を出すように目で何度か促すのだが、オーボエがそれに答えない、という意思の疎通の行き違いが(たぶん)あったようだが、ノットの指揮棒に合わせてヴァイオリンのスタッカートの演奏が始まるとあとは何事もなく、ほぼ切れ目なく第四楽章に続いて弦楽器の美しいピチカートがあらわれ、やがて壮大なクライマックスに向かって音楽は高まってゆく。
 演奏の鳴りやんだ後は、今日はブラヴォーは禁止だから大きな拍手。珍しいことに舞台袖に引き上げた演奏者全員が再びステージに表れてカーテンコールに答えた。今日はアンコールは無いのだが、観客は大満足だったろう。
 いやあ、プロの凄さというものをまざまざと見せつけられた。迷ったけどやや興味本位もあって聴きに来て本当に良かった。素晴らしいものを聴かせていただいた。

 家に帰ってプログラムに載っていた経緯を読んでまたびっくりした。代役の指揮者を立てようかと団は思っていたがノットがリモート演奏を提案し、でもそれでは時間差ができてしまい、オケの演奏する音が指揮者に届くのに数秒かかることが判明。それでノットは演奏を聴かずに指揮を映像化することを決断。これに対して楽団側は映像に合わせるリハーサルはいっそやらないことを決断。ノットの書き込みのあるスコアを見て音作りをして本番に臨んだのだそうだ。 
 仰天! 
 こういうのを真剣勝負というのだな。

付記:ぼくは耳が遠くなっていて、大ホールの3階席・4階席では音楽が小さく聞こえるから物足りない。で、これまではS席のしかも前から10番目ぐらいの真ん中あたりに座っていたのだが、それではお金がかかるのであまり聴きに行けない。
 ステージ後ろのP席はどこのホールにもあるわけではないし、歌手が後ろ向きになるから声楽曲には向かない。でも安い。通常3000円くらいで聴ける。しかも演奏者に近いから音量は十分だ。やや金管の音が大きい難点はあるが、指揮者はよく見えるし、これから大いに通うことにしよう。
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