海まで続く平野を
埋めつくしたヒナゲシの花が
予感のように
わずかに紅を褪せさせる
それから二・三週間後には
海はもう 手のつけようのない
散り乱れる光の洪水に変わっている
焼けつく地表から逃れようと
数知れぬカタツムリが
枯れかけた草に這い上がる頃
(彼らはみなそこで死に
殻だけが残る)
すでに人影の絶えた丘陵を
砂まじりの熱風が寄せてくる
天と地の間のすべてのものを
押し包み窒息させるために
ふたたび雨が降りそそぐまでの
いつはてるとも知れぬ長い時の間
(樋口悟「待つ」再録)
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