星・宙・標石・之波太(しばた)

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宇宙の「交通管制」

2020-02-02 23:53:54 | 宇宙
 朝日新聞が毎月第1日曜日に発行する「GLOBE:グローブ」
2月2日発行の通巻226号
13[In-depth:読み解く]
[Behind the News:ニュースの深層]
小型衛星ビジネスが混雑に拍車 求められる宇宙の「交通管制」
が気になりました。



 アメリカ東部時間1月6日午後9時19分、フロリダのケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた
宇宙企業スペースXのファルコン9ロケットは、約1時間後、高度290kmに到達。積んでいた60機
の小型衛星がゆっくりと宇宙空間にはき出された。一つ一つが宇宙のインターネット基地局となる。
 同社は衛星群を使った高速通信網スターリンク計画を進めている。ネット環境が悪い途上国やへき地
でつながりやすくする狙いだ。この打ち上げでスペースXが保有する衛星は182機となり、衛星の運用
で世界最大の事業者になった。すでに米連邦通信委員会から1万機以上の打ち上げを承認されており、
将来的にはさらに3万機を追加することもにらむ。
 スペースXだけではない。米アマゾンも3200機あまりの衛星網を計画するほか、ソフトバンクが
出資するワンウェブも1980機を打ち上げる計画だ。日本でも衛星ベンチャーのアクセルスペースが、
地上を毎日くまなく撮影する超小型衛星を数十機打ち上げる。
 1957年、旧ソ連が打ち上げた世界初の人工衛星スプートニク1号で幕を開けた宇宙時代。人工衛星は、
通信だけでなく、天気予報、カーナビなどに使われる全地球測位システム(GPS)など暮らしに欠かせない
インフラになった。欧州宇宙機関(ESA)によると、昨年1月までに約9000の人工衛星が地球周回
軌道に投入された。約5000が軌道に残っているが、衛星ビジネスの活況で今後10年で数万機がこれに
加わると言われる。
 従来、宇宙のような3次元空間は広大で、二つの物体が偶然ぶつかるようなケースは極めてまれだとされ
ていた。しかし、2009年2月、米国の衛星携帯電話用の衛星イリジウムに、運用を終えていたロシアの
軍事衛星が衝突。宇宙初の「交通事故」は、産業にとっての「目覚まし時計だった」。
 ニアミスも起きている。2019年9月、ESAは地球観測衛星アイオロスの軌道を微修正したと明らかに
した。スペースXの衛星の一つと衝突する可能性があると警告を受けたからだ。
 宇宙ごみ(デブリ)は、打ち上げ後に分離されたロケットの部品や、運用を終えた衛星まで様々。地球に
近ければいずれは落下して大気圏で燃え尽きる可能性があるが、数十年、高速で回り続けることもある。
2007年の中国による衛星破壊実験では、観測できる直径10cm以上のものだけで2600個を超える
デブリをまき散らした。
 特に恐れられているシナリオが「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる現象だ。破壊された衛星が大量の
デブリになり、多の衛星やデブリにぶつかる。破壊の連鎖でデブリが爆発的に増え、宇宙が使えなくなって
しまう。
 現在、世界の宇宙状況監視の中心的役割を果たしているのは米軍だ。カリフォルニア州のバンデンバーグ
空軍基地で、衛星やデブリなど約2万3000個を24時間、監視している。衝突の危険性や接近などを
分析して公表する。しかし、10cm以下のものは把握し切れていない。
 宇宙の「交通管制」について、包括的な国際ルールはまだない。衛星などを打ち上げた際、国連に登録
することにはなっているが、無登録でも罰則はない。領空や領海のような管轄権の概念もない。
 ルール作りで主導権を握りたい米国は2018年6月、宇宙管制の一部を国防総省から商務省に移す方針
を発表した。商業利用が増えることを見込んだもので、米軍をより安全保障任務に注力させる狙いがある。
 産業界も動き始めている。業界団体「スペース・セーフティー・コアリション」は2019年9月、安全
運航や衝突回避のための情報交換、デブリを発生させにくい打ち上げロケットの選定などの「優良事例」
を発表。日本のデブリ除去ベンチャー・アストロスケールなど30社以上が賛同している。