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今日の筆洗

2023年05月18日 | Weblog
風力発電装置を研究とまわりの協力で完成させた十四歳の黒板純少年を同級生のチンタがほめる。「(君には)かなわないな」「ホクデンとバッチシ対決だもんな」▼倉本聰さん脚本のドラマ「北の国から87年初恋」にそんな場面があった。純の初恋の相手れいちゃんのおっかなそうなお父さんが協力してくれたことを思い出すファンもいるだろう▼せりふの「ホクデン」とは無論、北海道電力のこと。この風力発電さえあれば電力会社の向こうを張れるかも…。そんな少年たちの夢だろう▼気の重くなるニュースに三十六年前のドラマが浮かんだ。電力七社が申請していた電気料金の値上げを政府の物価問題に関する閣僚会議が了承した。六月使用分から電気代がまた、上がる▼標準的な家庭で14%から42%の値上げが見込まれるという。ロシアのウクライナ侵攻や円安による燃料価格の高騰。そちらさんにも事情があろうが、諸物価高騰のおり、こちらにも切実なフトコロ事情がある。上げ幅は適正なのか。古いドラマと違い、こちらには電力会社と「対決」する方法はなく、その値上げをただ、受け止めるしかない▼頼みの綱は政府の負担軽減策の補助金なのだが、これも十月以降はどうなるか分からない。東京では昨日、気温が三〇度を超えた。エアコンが恨めしく見える夏と、その後に来る補助金のない厳しい冬が心配になる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年05月17日 | Weblog
「Leap before you look」。ためらわずにやってみよという意味で日本でも「見る前に跳べ」とよく言う。大江健三郎さんの短編の題名にもあった▼元の英語の慣用句は逆で「Look before you leap」。「跳ぶ前に見よ」である▼慣用句はイソップ話と関係がある。狐(きつね)が井戸に落ち、上がれない。そこに山羊(やぎ)が通りかかり、尋ねる。「そこの水はおいしいかい」。狐はうまいよと答える。山羊は後先考えず、井戸に飛び込む▼井戸の中で狐が提案をする。「君が支えになれば、僕が君の背中を駆け上がり、後で君を引き上げるよ」。狐はこうして脱出するが、山羊を助けない。「君が賢ければ、上り方を考えるまでは、井戸に下りなかっただろうに」▼G7広島サミットの開幕が近づく。ウクライナ問題が大きなテーマだが、各国首脳にはまず「見よ」と願う。そして「それ」が使われた場合、どうなるかをかみしめてほしい。「それ」とは無論、核兵器である。首脳による広島平和記念資料館への訪問が予定されている▼核兵器がどんな結果をもたらすか。その資料館には痛ましい「後先」がある。「Look before」。見れば、核兵器に対しもっと臆病になれる。核戦争が絶対に飛び込んではならない井戸であることを現実的に理解できるだろう。広島開催の意義はそこにある。
 
 

 


今日の筆洗

2023年05月16日 | Weblog

江戸の昔は女性が「藪(やぶ)入り」の休暇を取れるのは三月で、女性客を当て込んで芝居小屋はこの時期、女性に人気の演目で興行を打ったそうだ(『川柳江戸の四季』下山弘)▼古い川柳の<三芝居見たでとりまく長局(ながつぼね)>。藪入りを利用して江戸三座(中村座、市村座、森田座)の芝居をすべて見て回った「つわもの」がいたか。この女性から、ひいき役者の出来を教えてもらおうとお屋敷勤めの同僚が集まっている様子がおもしろい。今も同じだろう▼江戸の歌舞伎役者、明治期なら男性をとりこにした娘義太夫。その後の時代なら俳優にレコード歌手。いつの時代も、暮らしに彩りを添えてくれる、アイドルがいた。アイドルにつらい生活の張りを見いだす人もいる▼一九六〇年代から数々の人気者を育て、日本のアイドル文化の基礎を築いたジャニーズ事務所の不祥事はファンにはショックだろう。かつての所属タレントが創業者ジャニー喜多川前社長から性被害を受けたとの訴えに対し、同社の社長が被害者に謝罪した▼問題は事実の解明と今後である。密室的で異常な運営もあったという。健全な運営に向けた立て直しを願う。悲しい顔をしたアイドルではファンの胸は躍るまい▼英語の【IDOL】は偶像の意味だが、十六世紀ごろは「邪神」という含みもあったそうだ。ファンのため悪(あ)しき運営という「邪神」を追い払いたい。


今日の筆洗

2023年05月15日 | Weblog
「母を探し求めて/メェイとなく母のない仔山羊(こやぎ)/それがあわれだと/鼻をつまみ 母山羊の声を真似(まね)て/メェイとないてみせた母さん−その声をいま真似て涙ぐむわたし」。詩人、サトウハチロー「母を探し求めて」。母山羊の声色を使う「母さん」がユーモラスで心やさしい。「母の日」である▼「母さん」が仔山羊を慰めようと声をまねたのはやはり仔山羊にわが子を重ねて思ったからだろうと想像する。もし母である自分がいなくなったら。仔山羊の寂しさが「母さん」には分かったはずだ。やさしさの「おすそわけ」と呼びたくなる▼昨年、国内の出生数は八十万人をついに切った。子どもが減るということは母親になる人、父親になる人が減るということだろう▼子に対する親の愛情量を数値化することはできないが、その量を明るい赤い色で示せるならば、子が減っている以上、日本列島は心細いピンク色になっているのだろう▼ピンク色の国ではあの「母さん」のように、よその子にもわが子を思う、やさしさの「おすそわけ」もあまり期待できないか。同時にお母さんの気苦労もお父さんの事情も理解されにくい社会かもしれない。経験がないと、子育ての大変さを理解するのはなかなか難しかろう▼少子化と「少・母親」化。どうも殺伐とした時代を想像してしまう。心細く「メェイ」と鳴くしかないのだろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年05月13日 | Weblog

天然痘(疱瘡(ほうそう))は紀元前から死にも至る病として恐れられ、長く予防法もなかった。人は神に祈った▼インドでは、ヒンズー教の天然痘の女神シタラ・マタ。ロバにまたがり、宝石、ほうき、不死の水を満たしたつぼを持つ。拝むと、発疹の痛みから逃れられるとされた▼日本でも疱瘡神が病をもたらすと信じられ、神社にまつられた。鹿児島県薩摩川内市では、流行時にそれがひどくならぬようにと舞った疱瘡踊が伝わる。病の神を踊りで歓待して機嫌をとり、早く他へ行ってもらおうとしたという▼予防法の発見は十八世紀末。世界保健機関(WHO)は一九六〇年代、予防接種などによる天然痘根絶作戦を本格的に始め、八〇年に根絶を宣言した。WHOで対策本部長などを務めたのが医師、蟻田(ありた)功さん。訃報に接した▼先のインドの女神の話も、根絶のため世界を歩いた蟻田さんの著書に教わった。バングラデシュでは戦乱で根絶作戦中断を強いられた。状況が落ち着き、周辺に逃れた人々が戻ると再流行した。アフリカでは同僚がゲリラ兵に捕まったり、マラリアに苦しんだり。七十三カ国から集まった六百八十人のWHOの仲間と苦楽を共にしたという▼世界には憎しみ、差別、宗教や政治の違いなどあるが、目的があればそれらを超え協力しあえると著書にある。神ならぬ人間も捨てたものじゃない、ということだろう。


今日の筆洗

2023年05月12日 | Weblog
一九六三年、日本の賠償の増額交渉のために来日したビルマ(現ミャンマー)政府代表団側は会談の冒頭、「家庭問題を兄に相談する弟のような立場で来ました」と語った▼戦時中、日本軍はビルマで、現地の独立義勇軍とともに宗主国の英国と戦った。日本が占領すると、ビルマ側は抗日武装蜂起を始めた▼兄弟というべきかはともかく、両国の関係は昔から濃密で複雑。戦後、深刻な食糧不足に陥った日本へビルマは米を輸出した。日本は経済支援を続けた。『物語 ビルマの歴史』(根本敬著)に教わった▼二年前にクーデターで実権を握ったミャンマー国軍。民主派が抵抗する中、一カ月前には村を空爆し多数の人が亡くなった。国軍の攻勢は続き、民主派も武装しゲリラ戦を挑む▼日本は国軍に、暴力停止や民主化指導者アウンサンスーチー氏の解放を求めるが、先方は馬耳東風に見える。空爆に使ったヘリはロシア製。国軍幹部はモスクワ訪問を重ねる。最近は中国政府の要人を客として迎えた。頼れる「兄」たちがいるらしい▼先の著書によると、国軍は昔からスローガン好き。「国軍だけが母、国軍だけが父、まわりの言うことを信じるな…」といったよびかけもあった。まわりとは民主派の政党を指すらしいが、現状では、国民の家族的紐帯(ちゅうたい)など望むべくもなかろう。かつて兄と呼ばれた国にできることはないのか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年05月11日 | Weblog

ウォルト・ディズニーが一九五五年、子ども向けのテレビ番組「ミッキーマウス・クラブ」を制作するに当たってスタッフにこう指導したそうだ。「子ども向けだからといって子どもをばかにしたようなものは作らんよ」▼子どもの人気者になるコツは子どもに真剣に向き合うことなのだろう。この方も、同じことを語っていた。「子どもだから、これくらいでいいだろうなんてたかをくくるとすぐに見破られます」。NHKの子ども番組「できるかな」の「ノッポさん」を演じた、高見のっぽさんが亡くなった。八十八歳▼前身の「なにしてあそぼう」を含めると放送期間は一九六六年から九〇年。高度成長期からバブル期の子どもの良き遊び仲間となり、何かを作ることの楽しさを教えてくれた。幼なじみを失った気分になる人もいるだろう▼子どもと同じ立場になれる人だったようだ。ある日のハンバーガーショップ。大声で泣く二歳ぐらいの女の子に手を焼くお父さんがいた。子どもを連れて出て行こうとするお父さんにのっぽさんが声を掛ける▼「泣き声は気にしないでいいよ。外に出るほどのことじゃない」。それよりもこうやってと、泣く子に話しかける。「あなたは何をお求めでしたか。ああ、お飲み物でしたか、失礼!」▼同じことをお父さんにやってもらった。ご著書によると女の子はぴたりと泣きやんだそうだ。


今日の筆洗

2023年05月10日 | Weblog
「それは無料だが、値段がつけられないほどの価値がある。自分のものにはできないが、使うことができる。そして、いったん、失ってしまえば、二度と取り戻すことはできない」▼米国の有名なビジネスマンの言葉だそうだが、「それ」とは無論、時間である。盗まれたのが時計と聞き、時間の大切さを教える言葉を思い出した。東京・銀座の時計店に三人組の男が押し入り、高級ブランド「ロレックス」の腕時計などを奪った事件である▼小欄には縁なき「ロレックス」なれど、最近の人気は高く、値も高騰しているそうだ。これを狙った犯罪も日本を含め、世界的に増えており、英国あたりでは腕に着けての外出を控える動きも出ているらしい▼犯行は午後六時十五分ごろ。昼から夜へと変わる「逢魔(おうま)が時」とはいえ、銀座のその時間は多くの人が行き交っていたはずだ▼目撃者が撮影した映像に震える。不気味な仮面をつけた三人組が人目も気にせず、バールのようなもので店内のショーケースをたたき割っている。映画の撮影と勘違いした通行人もいたそうだが、これも日本の「現在」か▼犯行に関与したと疑われる少年四人が間もなく逮捕されている。断定はできないが、稚拙な手口から「闇バイト」の可能性も指摘されている。愚かな犯罪に使った時間。その時間と、しでかした悪事は後悔しても二度と、取り戻せない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年05月09日 | Weblog

米国のある映画監督が女性俳優の演技に腹を立て、大声で怒鳴ったそうだ。俳優は泣きだしてしまった。泣きやませないと撮影が続けられない▼監督はどうしたか。俳優に向かってさらに大声で「泣くな!」。もちろん、泣き声はさらに大きくなり、収拾がつかなくなった。元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題に対する日本政府のこれまでのやり方はこの監督と似たところがあるか▼戦時中、朝鮮半島から日本に動員された元徴用工の賠償金を求める声に対し、日本政府はその問題は日韓請求権協定によって解決済みだと突っぱねてきた。泣いている人に「泣くな」と言っているようなものだろう。七日の日韓首脳会談。岸田首相の発言には「泣くな!」から一歩踏み込んだ印象がある。元徴用工について「心が痛む思いだ」と述べた▼あまり踏み込めば自民党保守派の反発を招く可能性がある中、慎重に選んだ言葉なのだろう。おわびではないが、「心が痛む」には元徴用工に寄り添う姿勢と「申し訳ない」というニュアンスもある▼元徴用工訴訟は賠償金を日本企業に代わって韓国財団が支払うことになっている。これによって日韓関係は改善に向かいつつあるが、首相としてはこの流れを大切にしたかったのだろう▼現在の両国間の良好な雰囲気をこのまま、長く維持したい。険悪な隣人関係なんてそれこそ、心が痛む。


今日の筆洗

2023年05月08日 | Weblog
 この間まで黄色の花を輝かせていたモッコウバラもそろそろおしまい▼五月の大型連休も終わり、本日は月曜日。ジャスミンのかおりも弱くなったような…。気のせいか。月曜日の到来にモッコウバラではないが、しおれたような気分になるのは小欄ばかりではなかろう▼予報では月曜日は雨のところが多いらしい。「雨の日と月曜日はいつだって私を落ち込ませる」。カーペンターズの古い流行歌の「雨の日と月曜日は」。口ずさんでも元気は出てこないか。ゴールデンウイーク後に憂うつな気分になりやすい「五月病」の季節である▼欧米で日本の五月病に比べられるのが「ポストバケーション・ブルース」。休暇後の「ブルース(沈んだ気分)」という意味になる。五月病もそうだが、休暇中、旅行や、家族とのんびりすごしたことでストレスが軽減される半面、その後のストレスがより重く感じてしまうらしい。無理は禁物である▼厚労省のウェブサイトに五月病の対処法があった。自分をあまり厳しく追い込まない、友人と話す、笑うというのもあった▼自信はないけれど、月曜日の気晴らしに小咄(こばなし)を一席。休み明けの月曜日、どうしても仕事に行きたくない男に向かって、友人がこう話しかける。「ねえ、月曜日のいい面を見ようじゃないか。少なくとも月曜日は週に一回しか来ない」−。あんまり気はラクにならないか。