米国のある映画監督が女性俳優の演技に腹を立て、大声で怒鳴ったそうだ。俳優は泣きだしてしまった。泣きやませないと撮影が続けられない▼監督はどうしたか。俳優に向かってさらに大声で「泣くな!」。もちろん、泣き声はさらに大きくなり、収拾がつかなくなった。元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題に対する日本政府のこれまでのやり方はこの監督と似たところがあるか▼戦時中、朝鮮半島から日本に動員された元徴用工の賠償金を求める声に対し、日本政府はその問題は日韓請求権協定によって解決済みだと突っぱねてきた。泣いている人に「泣くな」と言っているようなものだろう。七日の日韓首脳会談。岸田首相の発言には「泣くな!」から一歩踏み込んだ印象がある。元徴用工について「心が痛む思いだ」と述べた▼あまり踏み込めば自民党保守派の反発を招く可能性がある中、慎重に選んだ言葉なのだろう。おわびではないが、「心が痛む」には元徴用工に寄り添う姿勢と「申し訳ない」というニュアンスもある▼元徴用工訴訟は賠償金を日本企業に代わって韓国財団が支払うことになっている。これによって日韓関係は改善に向かいつつあるが、首相としてはこの流れを大切にしたかったのだろう▼現在の両国間の良好な雰囲気をこのまま、長く維持したい。険悪な隣人関係なんてそれこそ、心が痛む。
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