「それは無料だが、値段がつけられないほどの価値がある。自分のものにはできないが、使うことができる。そして、いったん、失ってしまえば、二度と取り戻すことはできない」▼米国の有名なビジネスマンの言葉だそうだが、「それ」とは無論、時間である。盗まれたのが時計と聞き、時間の大切さを教える言葉を思い出した。東京・銀座の時計店に三人組の男が押し入り、高級ブランド「ロレックス」の腕時計などを奪った事件である▼小欄には縁なき「ロレックス」なれど、最近の人気は高く、値も高騰しているそうだ。これを狙った犯罪も日本を含め、世界的に増えており、英国あたりでは腕に着けての外出を控える動きも出ているらしい▼犯行は午後六時十五分ごろ。昼から夜へと変わる「逢魔(おうま)が時」とはいえ、銀座のその時間は多くの人が行き交っていたはずだ▼目撃者が撮影した映像に震える。不気味な仮面をつけた三人組が人目も気にせず、バールのようなもので店内のショーケースをたたき割っている。映画の撮影と勘違いした通行人もいたそうだが、これも日本の「現在」か▼犯行に関与したと疑われる少年四人が間もなく逮捕されている。断定はできないが、稚拙な手口から「闇バイト」の可能性も指摘されている。愚かな犯罪に使った時間。その時間と、しでかした悪事は後悔しても二度と、取り戻せない。