二〇一五年、ラグビーワールドカップの日本対南アフリカ戦をファンは忘れまい▼強豪を相手に日本が三点差を追う。が、時間がない。土壇場でボールをもらった立川理道が左中間のアマナキ・レレイ・マフィに長いパスを放る。マフィからボールを受けたカーン・ヘスケスが左コーナーにトライ。南アから逆転勝利をもぎ取る。世界中を驚かせた番狂わせである▼「ブライトンの奇跡」を別の試合に重ね、また、立川選手かと、うなる。リーグワン決勝の埼玉パナソニックワイルドナイツ対クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。埼玉リードの試合終盤、キャプテン立川が木田晴斗に正確なキックパス。これが逆転のトライにつながる。東京ベイが悲願の初優勝を果たした。立川さん、今度はキックパスだったか。この選手は逆転を呼び込む何かをお持ちのようだ▼埼玉優位の下馬評があった。日本代表級がひしめく埼玉の厚い選手層。過去の戦績を見ても東京ベイの分は悪い。ラグビーは番狂わせが極めて起こりにくい競技だが、東京ベイは見事に強豪をうっちゃった▼リーグMVPに立川が選ばれた。三十三歳。驚くほどの足はないが、味方の窮地に真っ先に駆けつけ、ディフェンスに加わる、ひたむきさと決意がある。受け取りやすいパスを投げる優しさがある▼良いチームと良いキャプテン。喜びにわく船橋の町がうらやましい。