馬とイノシシが同じ場所で暮らしていた。ところが、イノシシが草を踏みつぶし、飲み水を濁らせるので馬は許せなくなった▼馬はイノシシをやっつけようと猟師に助太刀を頼む。猟師は提案する。「おとなしく馬具を着けさせて自分を乗せてくれなければ助けてやることはできない」。馬はこれを受け入れ、無事、イノシシを追いだしたものの、猟師は馬をそのまま連れ帰り、自分の家につないだ▼イソップの「猪と馬と猟師」。イノシシへの仕返しを試みた馬の末路が気の毒だが、この話を現在の中東情勢にたとえるのなら、馬は米国ということになるか▼ヨルダンにある米軍の基地が攻撃を受け、3人が死亡した。米国は複数の親イラン武装組織のしわざとみて、イラクとシリアにある施設に対し、報復攻撃を行った。報復しなければ、米国の世論が収まらぬことは理解できる。大統領選挙の年でもある▼気がかりは報復の程度だろう。今のところ、イランと全面対決する気はなさそうとはいえ、3日には米英軍がイランの支援を受けるイエメンの武装組織「フーシ」を攻撃するなど報復を続ける構えである。必要以上の報復があれば、地域のさらなる緊張につながりかねない▼イソップがあの話で教えているのは慎重さである。怒りに燃え、大局観に欠いた仕返しに夢中になれば、予想できなかった窮地に陥ることもあり得る。