「ざるかぶり犬」という縁起物がある。名の通り、犬が目深に竹ざるをかぶった姿の玩具で江戸の昔から伝わる▼「笑」の字と関係がある。「笑」を「竹カンムリに犬」と見立てて笑を招く縁起物としたのだろう。こんな話を以前も紹介した。弘法大師が笑の字をつい忘れてしまった。そこにざる(かご)をかぶった犬が現れる。これを見て、笑の字を無事、思い出した▼漢文学者の白川静さんによると「笑」の漢字は巫女(みこ)が両手を上げて踊る姿だそうだ。神を楽しませるため、笑いながら踊ったという▼「笑」の字とざるかぶり犬はやはり無関係だったか。考えてみれば、お大師様が「笑」を忘れるはずもない。2023年が幕を下ろす。この1年、笑いに恵まれた世の中だっただろうかと思い返す▼なるほど、新型コロナウイルスはひとまず落ち着きを見せ、これには安堵(あんど)のほほ笑みがこぼれたが、物価の高騰、上がらぬ給料に到底、破顔とはなるまい。国際情勢は終わらぬロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃など「笑」とは遠い1年だった。国内政治といえば自民党の裏金問題など顔のこわばる話が尽きぬ▼「ざるかぶり犬」を手に取る。大笑いとはならぬまでも、ほのぼのとしたおもしろさがある。来年はこの程度には笑える年となることを-。願いを込めて今年最後の筆をおく。よいお年を。