毎年、今年の漢字を予想するが、これがなかなか難しい。真夏なら「暑」、この師走なら間違いなく、自民党派閥のパーティー裏金問題の「裏」だが、この1年全体の世相を表現する一文字となると考え込んでしまう▼日本漢字能力検定協会が選んだ「今年の漢字」は「税」だった。清水寺の貫主さんが揮毫(きごう)した文字に文句はないが、「税」とは予想が外れた▼なるほど、評判の悪い消費税のインボイス制度導入や防衛増税に政権批判をかわす狙いの所得税減税など「税」に右往左往した年か。国民は「税」という漢字の裏に物価高など生活の「苦」や政治への「恨」の文字を見ているのかもしれない▼小欄の外れた予想は「偽」。人工知能(AI)を悪用したフェイクニュースなどの偽情報はますます精巧になり、見分けがつきにくい時代となった。人の為(ため)のはずのデジタル技術の向上は同時に「偽」の技術も高め、人々にあだをなす▼「偽」は投票上位の20位にも入っていなかったが、米国の辞書の「メリアム・ウェブスター」が今年の単語に「authentic(オーセンティック)」を選んだそうだ。意味は「本物の」「正真正銘の」。「偽」多き世の中に「本物」を見つけたい時代なのだろう▼来年は米大統領選挙もある。どんな醜い偽情報があふれるか。この手の悪弊は日本にも伝わるのだろう。「憂」の漢字が浮かぶ。