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今日の筆洗

2023年07月20日 | Weblog

山本周五郎の短編集『赤ひげ診療譚(たん)』に心を病んだ妊婦の話がある(「氷の下の芽」)。心の不調は実は演技である。妊婦の両親というのが悪らつで、わが子を幼いうちから働かせ、その金を当てに仕事もせず、酒を飲み、うまいものを食べていた▼妊婦は心を病んだふりをすれば、この親に「身を売られずに済む」と考えた。事情を知った赤ひげの新出去定(にいできょじょう)の剣幕(けんまく)がすさまじい。子が親に尽くすのは当然と開き直る母親をしかりつける。「酒浸りになるために子を売る親はない」▼この一件は赤ひげの耳に入れたくない。小学三年の娘に食事を与えず、ケトン性低血糖症で入院させては共済団体から入院共済金をだまし取っていた母親が大阪府警に詐欺容疑で逮捕された▼娘を低血糖症にするためか、入院直前の三日間は七百キロカロリーしか与えていなかった。三日間で必要とされるカロリーのわずか13%。食べたい盛りの子どもにはどんなにつらかったか。下剤も飲まされていたという▼ケトン性低血糖症はけいれんや嘔吐(おうと)を発症し、意識障害を引き起こす危険もある。わが子にひもじい思いをさせた上、そんな危ない状態に追いやるとは母親の了見がどうにも分からぬ▼よほどの事情があったかと想像したが、受け取った共済金は外食費やエステ代に充てていたと聞く。中っ腹を通り越して、人の欲というものが悲しく、恐ろしくなる。