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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」12

2019年08月27日 | T.B.2003年

「10点満点中、3点だな」

東一族の医師が水樹に言う。

「薬を奪うためとは言え、
 あえて相手に刺されて近寄ったこと」
「う」
「それを届けるためとは言え、
 毒を受けた身で動き回ったこと」
「すんません」

水樹は布団に潜り、
顔を隠す。

「ええっと、ちなみに3点ってのは」

「鞘で受ける事で毒を少しでも払った事」
「おお」
「三点じゃ不満か」
「いや」

ちょっとびっくり、と水樹は言う。

「成先生なら、それでも0点って言うかな……なんて」

ゴホンと咳払いして、医師は言う。

「もう、お前の武術の先生じゃ無いからな」

それぐらいはおまけしてやる。と。

「それで、嗣子の様子はどうかな」
「痺れ薬の一種だろうな。
 解毒も早かったから、
 そう影響はないだろう」
「裕樹が走った甲斐があったな」
「………盛られた薬に関しては、だ」

「嗣子、どうなるのかな」

そうだな、と医師は指を折りながら言う。

1つ。

「砂一族と接触をしていた」

1つ。

「意図的で無いとは言え
 村の情報を流していた」

1つ。

「その情報で、砂一族が
 かなり近い位置までこの村に迫っていた」

「お咎め無し、では済まないだろうな」
「わざとじゃない、のは
 宗主様は分かってくれるよな」
「それは、俺達が判断する事じゃない」

よく考えろ、と水樹に言う。

「無実の罪ならともかく、
 嗣子はやらかしてしまった。
 罰を受けなければならない」 

それが決まりだ、と医師は言う。

「宗主はそうしなくてはいけないし、
 嗣子のためにもそうあるべきだ」
「そんな事言ったって、
 罰には色々あるだろ」

「今まで、情報を漏らした者が、
 処刑された事もある」

「………そんな!!」
「大丈夫だ、それはない。
 嗣子は生かされる。それは確かだ」

何か知っているように、医師は言う。

「後は、必要以上に罰が重くならないように
 誰かが直談判に行ってみるしかないな」

な、と水樹に言う。

「………そうか、そうだな!!」

がばっと水樹はベッドから飛び起きる。

「合点承知だぜ、成先生!!」
「いや、お前もまだ寝ておけ」
「こういうのは早いほうが良いのでは」
「言うたって、
 まだ、夜中だから。
 明日裕樹と2人で行ってこい」
「だな、裕樹も今日は気を張っただろうからなあ」

仕方あるまい、と
布団に潜り込む水樹を見届け、
そうそう、と医師は部屋を後にする。

「そうだ、水樹」

扉を閉める前に医師は問いかける。

「お前、砂一族はどうした」

水樹が戻ってきている以上、
相手も追っては来れない所まで
勝負は決めてきたのだろうから。

「ああ、あいつ、ね」

うんうん。と水樹は言う。

「色々挑発して来るし、
 我慢するのも大変だったんだぜ」

俺単純だし、怒りやすい方だし、と
頬を膨らませながら答える。

で、

「置いてきたよ」
「置いてきた、か」
「そうそう、止めはさしてないよ。
 俺が手を下すまでも無いって言うか」

ねえ、と。
答える水樹の髪留めが揺れる。
戦術大師だった祖父から貰った物。

確かに彼も、祖父の血を引いている。

「砂一族の誰かが、
 見つけてくれるといいよな」

「水樹、お前、
 砂一族からどこまで聞いた」
「えー、どこまでって、
 分かんないけど、多分、全部」

「………そうか」

分かった。早く寝ろよ。と言って
医師は扉を閉める。

「おやすみ。成先生」

医師を見送り、
水樹も目を瞑る。

きっと同じ病院のどこかで
彼女も今は眠っていると良いなと思いながら。

「おやすみ、嗣子」

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