TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」33

2019年08月09日 | T.B.2019年


 雨が降っている。

 琴葉は立ち上がる。

「琴葉……」

 紅葉が近寄る。

「琴葉、どこへ」

「私が行く」
「え?」

「私が、山へ行く」

「琴葉、何を」
「迎えに行ってくる」

 紅葉は首を振る。

「危険だわ」
「何が」
「雨が降っている、日が落ちる、それなのに山に入ると!?」
「その危険な中に、なぜあいつを置いてきたのよ!」
「…………っ!」

 紅葉の表情が曇る。

「それはっ」
「仕方がなかった?」
「違う……」
「置いて行かれたのが、あんただったら?」
「…………」

「放してよ」

 琴葉は紅葉を振り払う。

「最低っ」

 琴葉は呟く。

「最低よ……、みんな」
「琴葉……」
「あいつは命をかけて……」
「…………」
「誠治を、あなたたちを、……守ったんじゃないの?」

 紅葉はうつむく。

「琴葉……」

 琴葉は足を引きずる。
 前へと進む。

 山へ向かって。

 紅葉は、追おうとする。

 が

「駄目だ、紅葉!」

 班のもうひとりが止める。

「危険だ」
「……でも、」
「危険だと云ったのは、紅葉だ」
「…………」
「村長の指示を待とう」
「村長は、……」
「おそらく、捜索をしてくれる」
「…………」
「あいつは、村長の義子だ」
「……ええ」
「必ず探してくれる」

 紅葉は、琴葉の背中を見る。

 雨は、止まない。

 琴葉の姿は見えなくなる。

「琴葉……」

 誰も、何も云わない。

 皆、顔を見合わせ、時を待つ。
 どうしていいのか、誰にも判らない。

 村長の到着を、待つ。

 雨が降る。

 やがて

 村長が現れる。

「ずいぶんと、人がいるんだな」

「村長!」

「さあて」

 村長が云う。

「もう一度、最初から聞かせてもらおうか」






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