雨が降っている。
琴葉は立ち上がる。
「琴葉……」
紅葉が近寄る。
「琴葉、どこへ」
「私が行く」
「え?」
「私が、山へ行く」
「琴葉、何を」
「迎えに行ってくる」
紅葉は首を振る。
「危険だわ」
「何が」
「雨が降っている、日が落ちる、それなのに山に入ると!?」
「その危険な中に、なぜあいつを置いてきたのよ!」
「…………っ!」
紅葉の表情が曇る。
「それはっ」
「仕方がなかった?」
「違う……」
「置いて行かれたのが、あんただったら?」
「…………」
「放してよ」
琴葉は紅葉を振り払う。
「最低っ」
琴葉は呟く。
「最低よ……、みんな」
「琴葉……」
「あいつは命をかけて……」
「…………」
「誠治を、あなたたちを、……守ったんじゃないの?」
紅葉はうつむく。
「琴葉……」
琴葉は足を引きずる。
前へと進む。
山へ向かって。
紅葉は、追おうとする。
が
「駄目だ、紅葉!」
班のもうひとりが止める。
「危険だ」
「……でも、」
「危険だと云ったのは、紅葉だ」
「…………」
「村長の指示を待とう」
「村長は、……」
「おそらく、捜索をしてくれる」
「…………」
「あいつは、村長の義子だ」
「……ええ」
「必ず探してくれる」
紅葉は、琴葉の背中を見る。
雨は、止まない。
琴葉の姿は見えなくなる。
「琴葉……」
誰も、何も云わない。
皆、顔を見合わせ、時を待つ。
どうしていいのか、誰にも判らない。
村長の到着を、待つ。
雨が降る。
やがて
村長が現れる。
「ずいぶんと、人がいるんだな」
「村長!」
「さあて」
村長が云う。
「もう一度、最初から聞かせてもらおうか」
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