TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」35

2019年08月02日 | T.B.2019年


 それは、どこで、だったのだろう。
 いつのことだったのだろう。

 景色はよく見えない。

 彼は、身体に痛みを感じる。
 何かの怪我?

 ああ、そうだった。

 村の守りで出たとき、だったか
 相手とぶつかり、怪我を負ったのだった。

 毒にもやられた。

 痛い。

 彼は、腹部を押さえる。
 ここに、刀を深く、入れられた。

 彼は立ち尽くす。

 あたりには、誰もいない。

 どこなのか。
 自分の村にいるのかさえも判らない。

 と

 彼は背後の気配に気付く。
 誰かいる。

 誰か。

 振り返らなくても、判る。

 どうしようか。
 出来れば、振り返りたくない。
 気付かないふりをして、このまま行ってしまおうか。

 けれども、その気配は近付いてくる。

 彼はそのまま、目を閉じる。

「…………のか、」

 その気配が、声を出す。

「守ったのか」
「…………」
「……仲間は、守ったのか」
「…………」

 彼は答えない。
 考える。

 守ったのか?
 あれは、仲間を守ったと、云えるのか?

 命に別状はないはずだ。
 治療すれば、怪我も治る。
 これまで通りに、身体は戻る。

 でも、怪我を負わせたと云えば、負わせた。
 怖い目にも、合った。

 守ったと、云えるのか?

「返事は」
「……はい」

 彼は目を薄く開く。
 歩き出す。

 問いに答えた。
 もう、十分だろう。

「お前は、」

 その声は、まだ続く。

「仲間意識はあるのか」
「…………」
「どうなんだ」
「それは……」

 ……そう教えたのは、あなただ。

 その者の前で、言葉にならない。

「仲間は必ず、守れと……」

 そう教わったと云ったとき、西一族の村長が云った。

 ――お前の父親は、立派だな。

 彼は振り返る。

 そこに

 父親が立っている。

 彼を見ている。

 父親が口を動かす。
 何も言葉は出てこない。

 けれども、口の動きで、彼は理解する。

 ――早く帰ってこい。

「…………」

 彼は目を細める。

 首を振る。

 意味が判らない、と。





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