それは、どこで、だったのだろう。
いつのことだったのだろう。
景色はよく見えない。
彼は、身体に痛みを感じる。
何かの怪我?
ああ、そうだった。
村の守りで出たとき、だったか
相手とぶつかり、怪我を負ったのだった。
毒にもやられた。
痛い。
彼は、腹部を押さえる。
ここに、刀を深く、入れられた。
彼は立ち尽くす。
あたりには、誰もいない。
どこなのか。
自分の村にいるのかさえも判らない。
と
彼は背後の気配に気付く。
誰かいる。
誰か。
振り返らなくても、判る。
どうしようか。
出来れば、振り返りたくない。
気付かないふりをして、このまま行ってしまおうか。
けれども、その気配は近付いてくる。
彼はそのまま、目を閉じる。
「…………のか、」
その気配が、声を出す。
「守ったのか」
「…………」
「……仲間は、守ったのか」
「…………」
彼は答えない。
考える。
守ったのか?
あれは、仲間を守ったと、云えるのか?
命に別状はないはずだ。
治療すれば、怪我も治る。
これまで通りに、身体は戻る。
でも、怪我を負わせたと云えば、負わせた。
怖い目にも、合った。
守ったと、云えるのか?
「返事は」
「……はい」
彼は目を薄く開く。
歩き出す。
問いに答えた。
もう、十分だろう。
「お前は、」
その声は、まだ続く。
「仲間意識はあるのか」
「…………」
「どうなんだ」
「それは……」
……そう教えたのは、あなただ。
その者の前で、言葉にならない。
「仲間は必ず、守れと……」
そう教わったと云ったとき、西一族の村長が云った。
――お前の父親は、立派だな。
彼は振り返る。
そこに
父親が立っている。
彼を見ている。
父親が口を動かす。
何も言葉は出てこない。
けれども、口の動きで、彼は理解する。
――早く帰ってこい。
「…………」
彼は目を細める。
首を振る。
意味が判らない、と。
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