TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」10

2019年08月13日 | T.B.2003年

「ええっと、
 砂一族は自分が使う毒の解毒剤は
 必ず持ち歩いている」

そうだろ、と
水樹は問いかける。

「どうだかなぁ。
 今日は持ってきてないかもしれないぜ」

だってさぁ、と
スガは嗣子に笑いかける。

「そろそろそいつ
 用済みだなって思ってたし」

「おまえ!!」
「裕樹」

水樹は裕樹を制する。

「嗣子を連れて村に戻れ!!」
「でも兄さん」
「間に合わなかったらどうする!?」

一瞬の間の後、
裕樹は頷き、嗣子を抱えたまま駆け出す。

「あれ?よかったの?
 一対一より二人掛かりで来たほうが
 勝率上がったんじゃ?」

まぁ、その間に毒は回るけど、と。

「お前1人ぐらいなら
 俺で充分だ」
「へぇ、随分と自信があるようで」

ふうん、と
言葉の終わらないうちに
スガは短刀を投げる。

「おわっ」

避けた所に飛んで来た針を
あぶな、と水樹が躱す。

そこにまた、飛び道具。

「っ!!
 次から次へと」
「ほらほら、
 余計な事喋ってる暇は無いぜ。
 さっきの光る術で逃げたら?」

ええと、そう、紋章術?
スガが楽しそうに言う。

「あれは、使える人限られてるから。
 俺は!!送ってもらった!!だけ!!」
「なんだ、片道だけか」

そうだと思ったけど、と
スガがため息をつく。

「ああ、イライラするなぁ。
 早く終わってくれよ」

当たりそうでなんとか躱す水樹に、
不機嫌そうに吐き捨てる。

「こんな雑用みたいなの
 いい加減にして欲しいんだよ」
「はぁ?」
「東の情報を引き出すためとは言え、
 愛想の良い返事しなきゃいけなかった
 俺の気持ちも考えてくれよ」

「俺達変わり者だね。
 一緒だね。
 いつか2人でどこか行こうねって」

「まともに考えれば分かるだろ。
 反吐が出る。
 まったく、あの、………」

ああ、と額に手をあてる。

「何て言ったっけ、あの東一族の女。
 まあ、どうでもいいけど」

うーん、と水樹が頭をかく。

「それってさ、
 俺を怒らすために言ってるのかな」

よくある戦い方。
わざと相手を怒らせて、
冷静な判断力を削ぐ、という。

「ありゃ、駄目か。
 まああんなお荷物なら、
 お前達も手に余ってるって事?」
「そうじゃなくて」

水樹は構えを取る。

「最初から、俺、
 結構怒ってんだけどな」

ち、とスガはマントの下を探る。

「もう、いい加減、
 飛び道具も投げ終わった頃だろ」
「ああ、そうか。
 そういう作戦ってわけか」

別にそれだけじゃないし、と
スガもナイフを抜き構える。


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「琴葉と紅葉」33

2019年08月09日 | T.B.2019年


 雨が降っている。

 琴葉は立ち上がる。

「琴葉……」

 紅葉が近寄る。

「琴葉、どこへ」

「私が行く」
「え?」

「私が、山へ行く」

「琴葉、何を」
「迎えに行ってくる」

 紅葉は首を振る。

「危険だわ」
「何が」
「雨が降っている、日が落ちる、それなのに山に入ると!?」
「その危険な中に、なぜあいつを置いてきたのよ!」
「…………っ!」

 紅葉の表情が曇る。

「それはっ」
「仕方がなかった?」
「違う……」
「置いて行かれたのが、あんただったら?」
「…………」

「放してよ」

 琴葉は紅葉を振り払う。

「最低っ」

 琴葉は呟く。

「最低よ……、みんな」
「琴葉……」
「あいつは命をかけて……」
「…………」
「誠治を、あなたたちを、……守ったんじゃないの?」

 紅葉はうつむく。

「琴葉……」

 琴葉は足を引きずる。
 前へと進む。

 山へ向かって。

 紅葉は、追おうとする。

 が

「駄目だ、紅葉!」

 班のもうひとりが止める。

「危険だ」
「……でも、」
「危険だと云ったのは、紅葉だ」
「…………」
「村長の指示を待とう」
「村長は、……」
「おそらく、捜索をしてくれる」
「…………」
「あいつは、村長の義子だ」
「……ええ」
「必ず探してくれる」

 紅葉は、琴葉の背中を見る。

 雨は、止まない。

 琴葉の姿は見えなくなる。

「琴葉……」

 誰も、何も云わない。

 皆、顔を見合わせ、時を待つ。
 どうしていいのか、誰にも判らない。

 村長の到着を、待つ。

 雨が降る。

 やがて

 村長が現れる。

「ずいぶんと、人がいるんだな」

「村長!」

「さあて」

 村長が云う。

「もう一度、最初から聞かせてもらおうか」






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「水樹と嗣子」9

2019年08月06日 | T.B.2003年

「え?」

はー、と
呆れたようなため息がスガの口から漏れる。

「これだから、
 世間知らずは使えねぇな」
「え?え?
 どうしたの、スガ?」
「なんだよ、もうばれたのか。
 もう少し情報が引き出せるかと思ったんだけどな」

まあこんなもんか、と立ち上がり
急に身支度を始める。

「あの、怒ったの?
 ごめなさ、………あ………え?」

声が上手く出せない、と
嗣子は喉元に手をあてる。

「あ………あれ?」

「なあなぁ」

笑顔でスガが嗣子を覗き込む。

「いつも俺、お茶を二杯飲ませてただろ?
 あれな、一杯目が毒入りで
 二杯目が解毒剤入りなの」

「ど………?」

「だから、何も無い
 普通のお茶に思える訳」

「え?う………そ」

「普通はさ、もうちょっと警戒するよ。
 砂一族だよ、おれ。
 まさか飲んじゃうからびっくりしたよ」

ぜぇぜえ、と
嗣子の呼吸が荒くなる。

「ちょっと早く効きすぎじゃない?
 あー、もしかして
 ショックだった、本気で信じてた?」

ごめんなぁ、とスガが言う。

「お前の情報、どこまで使えるか分からないけど、
 東一族の砂漠の見張りはちょっと参考になったよ。
 あまり実力がある奴が居る時は
 大きく動かないように出来たし」

顔を近づけてありがとうな、と
満面の笑顔で。

そして、こう付け足す。

「なぁ、他の一族に生まれたら、とか
 言ってただろ。
 あれ、無理だよお前」
「………て」

やめて、言わないで、と
言いたいけれど言葉が上手く紡げない。

「お前みたいなのが狩り出来るか?
 商売できるか?
 何も出来ないくせに
 夢だけ見るのは立派だな」

「…………」

「ああ、泣くな泣くな、体力無くなるぞ。
 さてどうするかな」

荷物をまとめながら
鼻歌を歌いながらスガは呟く。

「村に連れて帰るのも重いなあ。
 毒の実験に使うのもいいけど、
 よし、ここは俺も情けをかけるとするか」

うんうん、とスガは言う。

「ここで殺しといてやるよ」

私は何か悪いことをしたのだろうか、と
嗣子は考える。

ただ、自分の事を理解してくれる人と
話しがしたかっただけ。
スガは分かってくれた。
嗣子の言うことにいつも頷いてくれた。

なんだか、窮屈な日々の中で
それだけが楽しみだったのに。

だから、村の事も少しだけ話した。
色々聞かせてくれる返事のつもりだった。
たわいもない話だったけれど、
あれは、村の情報を探っていたんだ。

迷惑かけてるから。

「………う」

裕樹の言葉を思い出す。

「うう………う」

あぁ、自分は

迷惑だったんだ。

「て」

それでも、自分が悪いのだと
分かっているけど、

自業自得だけれど。

苦しい。

誰か。

「たすけて」

「嗣子―――――!!」

怒号と共に砂埃が起こる。

誰だろう。
スガでは無い誰か、が。

「?」

新月の夜だけど、
姿が見える。
東一族の、見慣れた服。
仄かに明るいのは、紋章術の陣。

何かの時に一度だけ見たことがある。
転送の術。

「あー、ほら、
 バレちまってる」

はー、とため息をつきつつスガが嗣子を睨む。

「いやぁ、間に合って良かったぜ」
「いや兄さん、間に合ってないから。
 嗣子、しっかりしろ」
「大丈夫。
 こいつぱぱぱっと倒して
 すぐ帰れば間に合う」

ぜーはー、と
苦しいのは変わらないけど。

見捨てられてはいなかった。

「……………たすけて」

「うん、任せろ」

水樹がスガと対面する。

「と言うわけで
 さっさと倒されてくれよ」


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「涼と誠治」35

2019年08月02日 | T.B.2019年


 それは、どこで、だったのだろう。
 いつのことだったのだろう。

 景色はよく見えない。

 彼は、身体に痛みを感じる。
 何かの怪我?

 ああ、そうだった。

 村の守りで出たとき、だったか
 相手とぶつかり、怪我を負ったのだった。

 毒にもやられた。

 痛い。

 彼は、腹部を押さえる。
 ここに、刀を深く、入れられた。

 彼は立ち尽くす。

 あたりには、誰もいない。

 どこなのか。
 自分の村にいるのかさえも判らない。

 と

 彼は背後の気配に気付く。
 誰かいる。

 誰か。

 振り返らなくても、判る。

 どうしようか。
 出来れば、振り返りたくない。
 気付かないふりをして、このまま行ってしまおうか。

 けれども、その気配は近付いてくる。

 彼はそのまま、目を閉じる。

「…………のか、」

 その気配が、声を出す。

「守ったのか」
「…………」
「……仲間は、守ったのか」
「…………」

 彼は答えない。
 考える。

 守ったのか?
 あれは、仲間を守ったと、云えるのか?

 命に別状はないはずだ。
 治療すれば、怪我も治る。
 これまで通りに、身体は戻る。

 でも、怪我を負わせたと云えば、負わせた。
 怖い目にも、合った。

 守ったと、云えるのか?

「返事は」
「……はい」

 彼は目を薄く開く。
 歩き出す。

 問いに答えた。
 もう、十分だろう。

「お前は、」

 その声は、まだ続く。

「仲間意識はあるのか」
「…………」
「どうなんだ」
「それは……」

 ……そう教えたのは、あなただ。

 その者の前で、言葉にならない。

「仲間は必ず、守れと……」

 そう教わったと云ったとき、西一族の村長が云った。

 ――お前の父親は、立派だな。

 彼は振り返る。

 そこに

 父親が立っている。

 彼を見ている。

 父親が口を動かす。
 何も言葉は出てこない。

 けれども、口の動きで、彼は理解する。

 ――早く帰ってこい。

「…………」

 彼は目を細める。

 首を振る。

 意味が判らない、と。





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