TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」34

2019年08月16日 | T.B.2019年


 日が落ちる。

 琴葉は、山を登る。

 西一族なら、当たり前の山道。
 けれども、
 琴葉には、慣れない道。
 険しい道。

 こんなに、山道を歩いたことがない。
 いや、山に入ったことが、ない。

 雨が降っている。

 泥だらけの彼女は、

 ただ、進む。

 道なのか、判らない場所を、琴葉は進む。

 生まれつき悪い足が、痛む。

 いつも
 いつも

 それを理由にして

 何も出来ないと、

 周りから逃げてきた。

 その報いなのか。

 雨に濡れながら、琴葉は進む。
 よろめく。

「……涼」
 呟く。
「あんたって、本当にばかよね」
 ここにいない、彼に。
「あんなやつらを置いて、帰って来ちゃえばよかったのよ」

 どこを、どう、探していいのかも判らない。
 もし、
 獣に出くわしたら?

 どう、する?

 どうしたらよいのか、判らない。

 けれども

 そんなことより、

「生きていて……」

 遠のく意識で、琴葉は前を見る。
 近くの木に、手をかける。

 息を吐く。
 どれぐらい歩いたか。

 雨の降る、視界が悪い中。

「…………」

 小さな、明かり。

「……え?」

 琴葉は目を疑う。
 けれども、その明かりは、そこにある。

「あれは、……」

「誰だ!」

 琴葉の前に、突然誰かが現れる。

「誰だ、お前は!」

 琴葉は、目を見開く。

 まさか

「山、一族……」

「もしや、西一族の女?」

 山一族は人を呼ぶ。

「おい! 西一族だ!」

 琴葉は肩で息をする。

 山一族が集まる。

「まさか?」
「本当に?」

 琴葉は目を細める。

 云う。

「私は、……人を探しに来ただけ」




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