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「涼と誠治」38

2019年09月06日 | T.B.2019年


「不思議な話だ」

 山一族の族長が云う。

「黒髪の西一族」
「…………」
「本当に、西一族なのか?」

 族長は、再度訊く。

「髪色はもちろん。顔立ちと云い、やることと云い」
「どう云うこと?」

 横にいる族長の娘が訊ねる。

「敵地にいても冷静になり、黙りをすることだ」
「へえ!」
「今の若い西一族は、ここまで出来ん」

 族長が云う。

「相当、訓練を積まされているんだな」

 涼は何も云わない。

 族長は、笑う。

「西一族の村長も、すごいのを育てている」
「ふうん」

「そうだ」

 族長は、娘を見る。

「お前の鳥は?」
「私の?」
「怪我は治っているだろう?」
「ああ、この前の」

 族長の娘が云う。

「でも気性が荒いからなぁ」
 云う。
「他人に何をするか判らないよ」

 族長が頷く。

「お前の鳥を、ここへ」
「判ったわ」

 しばらくして、族長の娘は鳥を連れて戻ってくる。

 山一族が狩りの供とする、白く、大きな鳥。

「さあ」

 族長の娘が云う。

「族長様よ」

 鳥は大人しく、族長の腕に乗る。

「ほら」

 族長は、鳥を涼の前に出す。

「覚えているか?」
「…………」
「お前に礼を云っておる、西一族よ」

 涼は横になったまま、その鳥を見る。

「お礼?」
 族長の娘が首を傾げる。
「お前こそ忘れたのか?」
「あ、えっと」

「狩りではぐれたときのことだ」

 鳥が鳴く。

 少し前、

 共に狩りに出たとき

 怪我を負った、この鳥とはぐれた。
 探しても見つからない。
 諦めて村へ帰ると、いつの間にか、手当をされた状態で戻っていた。

 鳥が再度、鳴く。

「この西一族が恩人だ」
「……え?」

 族長の娘は、涼を見る。

「なぜ、それが、」
「この鳥の様子を見れば判るだろう?」

「……そうか」

 涼が呟く。

「……してほしいと」
「何?」

 族長は涼を見る。

「怪我は完治しているから、狩りに連れ出してほしいと云ってる」
「何!」
 族長が声を出す。
「お前、鳥の言葉が判るのか!?」

 族長は笑う。

「鳥を救ってくれて、感謝する」

 族長の娘も、慌てて礼をする。

「そう、あなたが……」
「借りを返すのは、我々たちの方なのだよ」
「……感謝します」

「さあて」

 族長は立ち上がる。

「ゆっくり休め」

 そして、窓の外を見る。
 雨が、上がっている。

「お前の迎えは、誰が来るかな?」





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