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「涼と誠治」36

2019年08月23日 | T.B.2019年


「…………!?」

 涼は、はっとする。

 ……ここは?

 目を開く。
 周りを見ようとする。

 けれども、よく見えない。

 山の中ではない。
 崖の下ではない。

 どこか人の住む場所。
 そこに、横たわっている。
 身体は、……動かない。

「気付いたのね、西一族」

 ……西一族?

 誰かがいる。
 彼に、云っている。

「あの雷雨の中、崖から落ちて助かるなんて奇跡よ」

 その声は、涼のすぐ横から聞こえる。

「しかも、雷も落ちたんだって?」

 横になったまま、涼は声のする方向を見る。

「すごいわ、普通は助からない」
「……お前は」
「いったいどうやって助かったの?」
「山一族?」

「そうよ」

 山一族は笑う。

「ここは、」
「山一族の村に決まっているじゃない」
 山一族が云う。
「西一族が、そうそう入れるところじゃない」
「……ああ」

 涼は呟く。

「……助かった、のか」

「そうだと云っているでしょう」

 山一族は息を吐く。

「よかったわね」

 横になったままの涼を、山一族はのぞき込む。

「涼、とか云ったかしら」
 訊く。
「いったい、何をしたの?」
「……何って?」
「どうやって助かったかと、訊いているの」

 涼は、山一族を見る。
 けれども、視線が上手く合わない。

「あの状況で助かるとはとても思えない」
「…………」
「でしょう?」
「…………」
「何をしたの?」

 涼は首を振る。

「なら、当ててあげましょうか」

 山一族が云う。

「……魔法、ね?」

「……魔法?」

 涼の返しに、山一族は目を細める。

「見慣れない魔法の痕跡があったと」
 その場にいた山一族が云っていた。
「裏一族がいたからではなく?」
「まあ、裏の可能性もあるだろうけど」
 山一族は云う。
「あなたが使った魔法でしょ?」

「…………」

「普通、西一族は魔法を使わない」
「…………」
「でも、あなたは魔法を使える」
「…………」
「しかも、相当、慣れているとみた」

 涼は答えない。

 目を閉じる。

「ちょっと。黙りはやめて」

 山一族は云うが、涼は目を開かない。

「あなた、下手したら、訊問がはじまるわよ」

 涼は何も云わない。

「何よ……」

 山一族は息を吐く。

 と

 誰かの足音。





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