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「水樹と嗣子」13

2019年09月03日 | T.B.2003年

「はぁ~、お偉いさんと会うの、緊張した~」
「宗主様って言いなよ、兄さん」

水樹と裕樹は宗主の屋敷を離れる。

「ってか、宗主様と佳院兄さんってそっくりだよな。
 佳院兄さんも将来ああなるのかな」
「そりゃ、親子だから」
「近寄りがたい佳院兄さんかぁあ」
「今も俺は結構近寄りがたいけど、
 わいわい話しかけるの水樹兄さんだけだし」
「そっかー」
「そうだよ」
「………」
「………」

整った庭をとぼとぼと歩く。
出口まで、宗主の敷地は広い。

「俺達の説明って、
 どこまで宗主様に伝わったかな」
「どうかな、伝わってあれなのか、
 伝わらずあれなのか」

座敷牢にて謹慎。
期限は決まっていない。

それが水樹達が聞かされた
嗣子の罰。

「期限が決まっていないって
 どういう事だろ」
「………無期限ってわけじゃないだろう」
「そうかな」
「1.2年とか。案外1ヶ月とか」
「兄さん適当な事言わないでよ」

「『命があるだけでも、マシだと思え』」

宗主から2人に向けられた言葉。
それは分かっている。
それでも。

「「………」」

「なあ、嗣子って
 ここのどこかに居るんだよな」

今はこの敷地のどこかに移された、と聞いている。

「俺、こっちだと思うな」

背ほどの庭木が生い茂る脇道を指差し、
水樹が歩き始める。

「兄さん、どこ行くんだよ」
「嗣子に会いに」
「………いや、ダメだって」

両親ですら会うことが出来ないのに。

「だから、
 今しか無いだろ」

いや、だってさ、と
しばらく悩んだ後、腹を決めたように
裕樹も水樹の後を追う。

「あの家かな、兄さん」
「いや、あんな東屋みたいなのじゃ無いと思うな。
 あれは、こう、隠れて住んでる奥様的な」
「それってどういう」

うーん、と水樹は辺りを見回す。

「あそこ」

ぽつん、と佇む建物。

入り口には鍵が掛かっている。
2人は裏手に回るが、
目線の高さよりも上に
小さな窓が2つ。

ここに、嗣子が居るのだろうか、と
そこからをためらう裕樹に遠慮することなく
水樹は声をかける。

「おーい、嗣子!!」
「兄さん声大きいって。
 他に人が居たらどうするんだよ」
「いや、女子の部屋に入る前は
 必ず声かけろって姉ちゃんが」
「今それ必要かな!?」

「「…………」」

暫く待つが、返事はない。

「兄さん、ここは違うんじゃ」

いや、と水樹は続ける。

「っていうか、具合悪くて
 中で倒れていたり」

その言葉に裕樹も顔を青くする。

「裕樹!!肩車!!」
「分かった」

うん、と顔を見合わせた後、
さっと2人はお互いを待つ。

「俺が上かと」
「え?兄さんが下だろ?」

あわあわ、と何だかタイミングの合わない2人が
もたついている間に
今までは無かった気配が建物の中で動く。

小さく、けれども
部屋の中で反響した声が2人に届く。

「何しに来たの?」


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