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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」32

2019年02月15日 | T.B.2019年


「誠治!」

 涼は焦る。

 音を聞く。
 裏一族が迫っている。

「涼っ」

 けれども、

 涼は、誠治を引き上げることが出来ない。

 誠治の足下はない。

 ただ、涼の腕が捕らえているだけ。

 涼は、もう片方で樹を掴んでいる。
 その手に力を込める。

「駄目だ、落ちる!」
「手を放すな!」
「このままじゃ、俺たち!」
「大丈夫」
「大丈夫って!」
「もう少し待て」
「何をっ!?」

さらに、雨が強くなる。

 誠治を掴む手も、支える手も
 雨が濡らしていく。

 雷の音。

「よく訊け」

 涼が云う。

「お前は西に帰って、このことを村長に伝えろ」
「帰って、て」

 この状況では、想像も付かない。

「一瞬だ」

 涼が云う。

「誠治には、はじめてのことだろうから、多少影響が出るけれど」
「…………?」
「何も心配するな」
「何の話だよ!」
「この俺でもずいぶん力を使うから、ふたりは飛ばせない」
「……っ」

「目が覚めたら、村長に」

 涼は、はっとする。
 瞬間、支える手を離す。

 真後ろに、裏一族。

「西がいたぞ!」
「崖から落ちた!」

 涼と誠治は、落ちる。

「わああぁああ! 落ち!!」
「誠治!」

 涼が叫ぶ。

「行くぞ! 転送紋章術!」

「涼っ!?」

「西一族村内へ!!」

 強い光。

 雷。

 あたりがその光で、照らし出される。

「雷だ!」
「気を付けろ!」
「下へ回れ、逃がすな!」

 雨が降り続ける。

 崖の下は、見えない。

「いや待て!」

 ひとりの裏一族が静止する。

 音。

 馬の足音。
 鳥の鳴き声。

「本物の山一族か!?」
「何?」
「やむを得ん!」
「この件は失敗だ!」

「散れ!」

 その言葉と同時に、裏一族は動く。
 すばやく姿をくらませる。

「誰だ!」
「山の領土を荒らしているのは誰だ!?」

 馬が、現れる。

「裏一族め!」

 崖の上に集まってきたのは、山一族。

「駄目だ」
「もういない」

 山一族は、馬を止める。

「ここには何も」
「いや、裏は落ちたと云っていたぞ」
「何が?」
「崖の下に仲間が?」

「違う」

「西一族だと聞こえた」

「西?」

 山一族はあたりを警戒する。

 けれども、

 もはや裏一族の気配はない。

 崖の下を覗く。

「あたりを警戒する者と、下に行く者に分かれろ」




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