「誠治、動くなよ」
涼は裏一族を見る。
「砂、一族?」
誠治が云う。
「毒を使う一族か」
「そうだよ!」
裏一族が動く。
「西一族は、砂に会ったこともないだろう!」
魔法。
涼は動く。
誠治から離れるように。
「気を付けな!」
裏一族が云う。
「あらゆる毒を持ってきたぞ!」
涼は、裏一族に踏み込む。
「っっ!?」
「裏になっても、好戦的なんだな!」
涼は、その手を掴む。
裏一族は笑う。
もう一方の手に、大きな針を握っている。
容赦なく、涼に向ける。
「うっ!」
涼は、その手も掴む。
「やるなぁ!」
「武器を放せ!」
涼と裏一族の力が拮抗する。
「お前、小柄なのに力があるな!」
けれども、わずかに裏一族の方が動く。
「このままだと、ほかのやつらが来るぞ」
「くっ……」
「砂特製の毒を知っているか?」
向けられた針が、涼に近付く。
「傷自体が深くなくても」
その針先には、毒。
「この毒で苦しみながら死ぬことになるだろう」
雨が降り続ける。
涼は、両手で裏一族を捕らえている。
武器を取ることが出来ない。
「さあ、どうする?」
裏一族は再度笑う。
「逃げなくていいのか?」
「涼っ」
誠治の声に、涼は首を振る。
動くな、と。
誠治の足には光が絡みついたまま。
体力を奪われ続けている。
このままでは、逃げることが出来なくなる。
「ん……?」
と、裏一族は首を傾げる。
「黒髪の、西一族?」
涼の顔を覗き込む。
目を細める。
「いや、違う」
その言葉に涼は目を見開く。
「お前、まさか、」
瞬間
涼は、裏一族を振り払う。
「わ、」
裏一族の手から、針が落ちる。
「うわぁああああああ!!」
「何、」
「あ、ああ、あ」
誠治は、倒れた裏一族の手を見る。
先ほどと同じ。
その手が黒く、焼け焦げている。
涼は自身の手を押さえる。
傷が付いている。
「……っっ」
「涼、平気か!?」
誠治は涼に近寄る。
「痛い痛い!」
裏一族は叫ぶ。
「……黒髪め、」
血を吐きながら、
「許さん」
見えないものが動く。
強い、力。
「わ、」
「――――!?」
「わああああああ!!」
涼と誠治は、その勢いで吹き飛ぶ。
ふたりだけではない。
樹が揺れる。
大きな石が飛ぶ。
地面が大きくえぐれる。
「涼っ!!」
「誠治っ!」
涼は、すんでのところで誠治を掴む。
もはや、
足下はない。
高い、崖。
涼は息をのむ。
目線だけ、裏一族を見る。
息はない。
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