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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」22

2019年02月12日 | T.B.2024年

「人前では使うなよ」

父親の言葉が頭を横切る。

分かっている。

以前の狩りで秋葉がケガをしたとき、
この言葉が引っかかって

使えなかった。

でも、それをずっと後悔していた。

「秋葉!!」

律葉は秋葉を庇うように抱きしめる。

背中は彼と化け物に向けているものの、
首を捻り
視線をそちらに向ける。

化け物の足元が
淡く光り始める。

「おや?」

意外だったのだろう、
今まで無言を貫き通してきた彼が
思わず、言葉を発する。

律葉に目を向けると
彼女の足元も同じ様に光っている。

魔術。

へぇ。なるほど。

口元だけでそう呟くと
この先が分かっていたかのように、
あっさりと、化け物の元を離れる。

「倒れて!!!」

律葉が叫ぶと、
化け物の足元から無数の杭が現れ
その体を貫く。

「――――!!」

化け物の叫び声。

「………効いてる」

律葉は思わず呟く。

所詮、本場ではない魔術。
どこまで効果があるのか。

効いている、だけど、
それで倒れた訳では無い。

それに、化け物の主人である彼も控えている。

彼は苦しむ化け物など目にもくれず
ふむふむ、と
律葉達を見て、なにか考えている。

「あなた、一体、どこの誰なの!?」

相変わらず、
口元には余裕の表情。

ふ、と背後の何かに気付くと
残念、と言わんばかりに
森の中に姿を消す。

「待ちなさい!!」

追いかけようとして、
先程の打ち身の痛みが
更に痛み出し身をかがめる。

「っつ」
「律葉!!」

魔術で現れた杭が消える。

化け物が再びこちらを見る。
弱ってはいるが
今の律葉に二回目の術は使えない。

「律葉、借りるね」

秋葉が律葉の弓を構える。

綺麗な構えだ、と
律葉は目を奪われる。

「っ!!」
「当たった!!」

効いている。
武器での攻撃が効いている。
それならば。

「2人とも、すまん、待たせた」

潤が2人に駆け寄り、
すぐさま武器を構える。

「潤!!」
「遅いよ、早く!!」
「悪かった。………なんだ、こいつ」

異常な事態。
潤も一瞬でそれを察知する。

「多分、使い魔、だと」
「使い魔?魔術か?
 なんだって、そんなもんが」

言いながら潤は
上空に向けて爆竹を鳴らす。

救援要請の証。

武器を構えながら潤が言う。

「飛び道具を多く持ってくれば良かったな」
「なんだか、触りたくないよね」
「2人とも、俺の前に出るなよ」

律葉はその会話を聞きながら
かがめていた身を起こす。

あんなに不安だったのに。
なんだか、安心する。

化け物が突然、身を震わせ
叫び声を上げる。

くる。

そう、皆が構える。

「………」

が、その場に倒れ込む。
蠢いていたが、
黒いモヤのようになって、少しずつ消えていく。

「なにが、どうなっている?」

警戒しながら潤が近づく。

消えていく化け物の背に刺さっているのは矢。
先程秋葉が射たものとは違う。

「この矢」

化け物の背後の草から
響が草をかき分けて出てくる。

「なんとか間に合った、かな」

あちこち、傷を負っているが
足を引きずりながらも
自分で、歩いて来ている。

「響、大丈夫!?」
「うーん、頭痛い。
 こいつなに?
 ……俺どうなってた?」
「無理はするなよ。
 多分、最初にお前が連れて行かれた」
「げぇ」

「律葉も、あまり無理に動くな。
 って、律葉!?」

「あ、ええ」

思わず座り込んでいた。

「大丈夫、って、あれ?え?」

ふん、と立ち上がろうとして
力が入らない。

よかった。
響を最初に見た時は
最悪の事態すら考えた。

秋葉も、潤も、皆無事だ。

「なんか、安心して、
 腰が抜けたみたい」

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