TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」31

2019年02月08日 | T.B.2019年


「誠治、動くなよ」

 涼は裏一族を見る。

「砂、一族?」
 誠治が云う。
「毒を使う一族か」

「そうだよ!」

 裏一族が動く。

「西一族は、砂に会ったこともないだろう!」

 魔法。

 涼は動く。
 誠治から離れるように。

「気を付けな!」
 裏一族が云う。
「あらゆる毒を持ってきたぞ!」

 涼は、裏一族に踏み込む。

「っっ!?」
「裏になっても、好戦的なんだな!」

 涼は、その手を掴む。

 裏一族は笑う。

 もう一方の手に、大きな針を握っている。
 容赦なく、涼に向ける。

「うっ!」

 涼は、その手も掴む。

「やるなぁ!」
「武器を放せ!」

 涼と裏一族の力が拮抗する。

「お前、小柄なのに力があるな!」

 けれども、わずかに裏一族の方が動く。

「このままだと、ほかのやつらが来るぞ」
「くっ……」
「砂特製の毒を知っているか?」

 向けられた針が、涼に近付く。

「傷自体が深くなくても」

 その針先には、毒。

「この毒で苦しみながら死ぬことになるだろう」

 雨が降り続ける。

 涼は、両手で裏一族を捕らえている。
 武器を取ることが出来ない。

「さあ、どうする?」
 裏一族は再度笑う。
「逃げなくていいのか?」

「涼っ」

 誠治の声に、涼は首を振る。

 動くな、と。

 誠治の足には光が絡みついたまま。
 体力を奪われ続けている。
 このままでは、逃げることが出来なくなる。

「ん……?」

 と、裏一族は首を傾げる。

「黒髪の、西一族?」

 涼の顔を覗き込む。
 目を細める。

「いや、違う」

 その言葉に涼は目を見開く。

「お前、まさか、」

 瞬間

 涼は、裏一族を振り払う。

「わ、」

 裏一族の手から、針が落ちる。

「うわぁああああああ!!」

「何、」

「あ、ああ、あ」

 誠治は、倒れた裏一族の手を見る。

 先ほどと同じ。

 その手が黒く、焼け焦げている。

 涼は自身の手を押さえる。
 傷が付いている。

「……っっ」
「涼、平気か!?」

 誠治は涼に近寄る。

「痛い痛い!」

 裏一族は叫ぶ。

「……黒髪め、」
 血を吐きながら、
「許さん」

 見えないものが動く。
 強い、力。

「わ、」

「――――!?」

「わああああああ!!」

 涼と誠治は、その勢いで吹き飛ぶ。

 ふたりだけではない。
 樹が揺れる。
 大きな石が飛ぶ。
 地面が大きくえぐれる。

「涼っ!!」
「誠治っ!」

 涼は、すんでのところで誠治を掴む。

 もはや、

 足下はない。

 高い、崖。

 涼は息をのむ。
 目線だけ、裏一族を見る。

 息はない。




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「律葉と秋葉と潤と響」21

2019年02月05日 | T.B.2024年

ふと、人が現れる。

律葉とその化け物の間に
それこそ、音もなく。

「だれ?」

思わず、律葉は呟く。

フード付きのマントを被っており
顔がよく見えない。

見えるのは口元だけ。

なんとなく、男のひとだろうか、と
それぐらい。

この状況を見ても、
何一つ驚いた様子が無い。

す、と彼は化け物の方に歩んでいく。
彼が手を伸ばすと、
まるで飼い犬のように化け物が頭を垂れる。

声は聞こえない。
彼がなにかを化け物に呟く。

瞬間。

「きゃっつ」

化け物の尾だろうか、腕だろうか
それが一瞬で律葉をはね飛ばす。

「……痛っ」

数メートル転がり、
律葉は脇腹を抱えながら起き上がる。

「あなた」

律葉は彼の方を見る。

音もなく現れた。
その時点で気付くべきだった。

魔術。

そして、人が使う化け物、
話だけなら聞いたことがある。

「それ、あなたの使い魔、ね、」

東一族が従える獣と
北一族が魔法で作り出すという獣。

おそらく、これは後者。

「ここは西一族の狩り場よ。
 それは分かっているのかしら」

もちろん、と
いわんばかりに彼の口元が歪む。

「…………」

最初、彼はこの獣を止めに来たのかと思った。
だけど、違う。
あえて、律葉を攻撃しろ、と命令を下した。

きっと、響にもそう。

「どうして、こんな事を」

律葉が問いかけるが
彼は口元に笑みをたたえているばかり。

ふと、なにかまた呟く。
また化け物に命令をしたのだろう。

思わず律葉は目を瞑る。

「律葉!!どこ!?」

たたたた、と
駆ける足音が近寄ってくる。

小さな、足音、これは。

「秋葉!?」

お、と彼もそちらを向く。

「駄目!!こっちは駄目よ、秋葉!!
 逃げて!?」

律葉が叫ぶほど、
どうしたの、と秋葉は駆け寄ってくる。

「律葉、どうしたの??
 りつ、……は!!?」

え?と化け物を見て
秋葉が動きを止める。

律葉は秋葉に駆け寄る。
駄目。
秋葉だけでも。

彼が腕を振るのが見える。

化け物が秋葉を向く。

駆け寄る。

「秋葉!!」

律葉は腕を伸ばす。


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「涼と誠治」30

2019年02月01日 | T.B.2019年


 雨が降っている。

「誠治!」

 涼は声を出す。

「止まれ!」
「駄目だ」
「誠治!」

 涼は、誠治の手を振りほどこうとする。

 けれども、出来ない。

 誠治は走り続ける。

「誠治っ」

 まずい。

 裏一族が魔法を使おうとしている。

 魔法に精通した裏一族なら、あたり構わず、使ってくるだろう。
 自分たちを殺すために。

 どこの魔法だ。

 裏一族との距離はまだある、が
 雨でぬかるむ道に足を取られ、走る速度も落ちてくる。

「誠治、魔法だ!」
「何、」
「止まれ!」
「このまま、逃げ切る!」

 涼ははっとする。

 強い光。

「へ、びっ!」

「あっ!」

 蛇のように伸びる光が、誠治の足にまとわりつく。

「何だこれは!」

 それでも、誠治は走る。

「誠治! こちらの居場所を感知している!」

「!?」

「止まるんだ!」

「っ、身体の力が!?」

 涼は足を踏み張る。
 誠治の動きを止めようとする。

「これは、体力や魔力を吸い取る魔法だ!」
「何?」

 このままでは

「死ぬぞ!」

 それでもなお、誠治は進もうとする。

「村にさえたどり着けば、」
「誠治!」

 誠治の力は強い。

 足に絡む光が強くなる。

 涼は目をこらす。
 その光を見る。

「北一族式……」

「涼、走れ……!」

 涼は誠治を見る。
 追いつかれるのも、時間の問題。

 雨が降り付ける。

「いた!」

「何っ!?」

 突然、目の前に裏一族が現れる。

 誠治は驚き、立ち止まる。

「おーい! ここに西がいるぞ!!」

 大声を出し、裏一族が笑う。

「さあ、殺してもいいと云われているし」

 涼は裏一族を見る。

 追いついてきたのは、ひとり。
 動きが速い、のか。

「ほかのやつらが来るまで、何をするかな」

「く……」
 誠治は肩で息をする。
「こんなところで……」

 涼は誠治の前に出る。

 誠治は明らかに疲弊している。
 体力が、奪われている。

 時間がない。

 涼は誠治を見る。

 そして、裏一族に向く。

「何一族だ」
「裏だよ」
「元は、砂一族だな?」
「ははっ」

 突然の吹き矢。

 涼の顔をかすめる。



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