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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」28

2017年09月15日 | T.B.1998年

 状況はこちらが優勢。

 と

 その海一族が笑う。

「お前ら、今、有利だと思っただろう」
「何?」

 アキラは弓を引いたまま

 はっとする。

 あたりが騒がしくなる。
 誰かがやってくる。

 ひとり、ではない。

 何人もの、海一族。

「おい、どうした!?」
「トーマ!?」
「この火は何だ!?」
「おい、舟の火を消せ!」

「みんな……、よかった」

 トーマの安堵の息が聞こえる。

 が、

 アキラの額に、汗が流れる。 

「みんな助けてくれ!」

 裏一族が、突然叫ぶ。

 まさか、

「山一族にやられた!!」

「山、」
「……一族?」

 慌ただしさが、一気に止まる。

 この場所すべての海一族が、アキラを見る。

「っっ!!」

 トーマは立ち上がろうとする。

「見てくれ!」
 裏一族が声を上げる。
「山一族が攻撃を!!」

 そこに倒れているのは、もちろん、海一族の格好をした裏一族。

 けれども、

 いきさつを知らない海一族たちからすれば、
 山一族であるアキラが、海一族に手を出したとしか思えないのだ。

「みんな、待っ」

 トーマの声。

 アキラは、ただ裏一族を見る。
 形勢は不利。
 それでも、矢を下ろすわけにはいかない。

 裏一族は、気付かれないよう、武器を控えている。

「トーマ」

 アキラは云う。

「俺を擁護するな」
「アキラ」

 状況を知るトーマの立場を悪くするわけにはいかない。
 山一族の味方など、もってのほかだ。

「おい! 山一族!」
「動くな!」

 少しずつ、海一族が近付いてくる。

 瞬間、

 アキラは矢を放つ。

 矢は、裏一族をかすめ、燃える舟を突く。
 裏一族がひるむ。
 思わず、倒れる。

 アキラは走る。

 裏一族の方へ。

「山一族め!」

 海一族が、アキラを狙う。

 アキラはそれを避ける。

「取り押さえろ!」
「逃がすな!」

「アキラ!」

 アキラは、走る。
 矢を持つ。

「動くな!」

 アキラは立ち止まり、声を出す。
 弓を引く。

 アキラの足元には、

 先ほど倒れた、裏一族。

 その矢を、裏一族に向ける。

「動くな、海一族!」



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