TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」24

2017年09月12日 | T.B.1998年

まずい、とトーマは蹲る。
頭を殴られたのか
すぐに立ち上がれない。

自分の状況が悪いのもそうだが、
得体の知れない者達が
一族のふりをして侵入している。

他一族の諜報員?

恐らく、山一族の村に火を点けたのも
彼らの仲間。
諜報員は情報を入手するのが仕事だ、
こんな事はしない。

それに彼は言った。

海一族だった、と。

「裏……一族、か?!」

聞いた事がある。
一族を追われた者、
罪を犯した者が集まった者達の事。

「黙れよ」

その声に、トーマは身構える。

が、
何も起こらない。

「誰だ!?」

1人の声に、トーマは
辺りを見回す。
剣を振り下ろそうとしていた者の手に
矢が刺さっている。

矢羽根の形が違う。
これは、山一族の物。

「ぐっ!!」

そうしているうちにもう1人にも矢が刺さる。

「トーマ、無事か!?」
「アキラ!!?」

アキラが矢をつがえたまま
トーマと彼らの間に立つ。

「すまない、助かった」
「気にするな」

立ち上がろうとするトーマを
アキラが制する。

そのまま、矢を
彼らに引き絞る。

「殺しはしない。
 すべて吐いてもらうぞ」

ざわっと、辺りが騒がしくなる。
港の火の手に気付いた
村人達が駆けつけた。

「おーい、どうした!?」
「トーマか!!??」

形勢が変わった。
トーマが安堵の息をつく。

が、その視線の端で
裏一族の口元が笑う。

そして、大きな声で叫ぶ。

「大変だ、
 山一族にやられた!!」

「「な!!」」

状況だけ見ると、
トーマは座り込み、
海一族の格好をした彼らは矢を受けている。

無傷で立っているのは
山一族のアキラだけ。

「しまった」


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「山一族と海一族」27

2017年09月08日 | T.B.1998年

 アキラは海に出る。

 海を、見たのははじめてだ。
 けれども、これが海だと、アキラは理解する。

 港。

 何層もの舟が停泊している。
 これで、海一族は漁へと出るのだろう。

 アキラは肩で息をしながら、あたりを見る。
 鳥の鳴き声に、再度、走り出す。

 さらに、先の方に、海鳥とアキラの鳥。

 そして

 不自然な火。

「…………?」

 アキラは弓を握る。

「トーマ……?」

 舟が燃えている。
 その横に、トーマがいる。
 別の海一族も、いる。

 アキラは立ち止まる。
 簡単に姿を見せることが出来る立場ではない。

 様子がおかしい。

 なぜ
 海一族同士、燃える舟の横で云い争っているのか。

 ――お前は誰だ。

 ――見れば判るだろう。

 ――いや、海一族じゃないな!?

「!!」

 トーマが倒れる。

 海一族がトーマに拳を振り下ろしている。
 剣を取り出す。

「まさか」

 アキラは迷わず、矢を放つ。

「っぅう!?」

 海一族が声を上げる。

 アキラの矢は、剣を持つ者の手に刺さっている。
 剣が落ちる。

「誰だ!?」

 相手はふたり。

「ぐっ!!」

 アキラはさらに矢を放ち、相手の動きを止める。

「トーマ!」

 アキラは、トーマに駆け寄る。

「アキラ……!?」

 トーマと、ほかの海一族の間にアキラは立つ。

 意識がもうろうとしてるのか。
 アキラはトーマを見る。

「大丈夫か?」
「すまない。助かった」
「気にするな」

 トーマが立ち上がろうとする。

「待て」

 アキラはそれを制止する。
 弓を握る。

「無理をするな」
「アキラ」
「何だ」
「こいつらは、海一族じゃない」
「…………?」
「裏一族だ」
「裏、一族?」

 トーマが頷く。

 アキラが云う。

「殺しはしない」

 直感。

「すべて、吐いてもらうぞ」

 おそらく、山一族のことにも関わっている者たち、だと。



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「海一族と山一族」23

2017年09月05日 | T.B.1998年

海一族は漁を行う一族。
港や舟を潰されたら
かなりの痛手になる。

トーマが走り付いたのは
村で一番大きな港。

「……ここは無事、か?」

肩で息をしながら
辺りを見回す。

だが、港はここだけではない。
村を囲む海の各所に点在する。

「違う場所なのか」

動きかけて足を止める。

それでいいのか?
この場を離れたら
ここは手薄になる。

誰かを連れてくるべきだった。
あてもなく探し回るには
トーマ1人には荷が重い。

「誰か」

―――――!!

鳥の鳴き声が聞こえて
トーマは顔を上げる。

「……アキラの鳥」

ここからは少し離れた港。
焦っていて見えなかったものが
見え、聞こえ始める。

海鳥が威嚇をする鳴き声も
山の火事ではなく
そこに向けて発せられている。

「あそこか!!!」

どうか、何かが起きる前に。

さっきから走り続けているが
止まるわけにはいかない。

「……っ!!」

港に辿り着いたトーマが見たのは
何層もの舟から上がる火の手。

「なぜ、ここで
 火が起こっているんだ」

どういう事なのか。

舟を片付けていたのだろうか。
呆然とその様子を眺めている者に
トーマは声をかける。

「何があった?」
「分からない、気がついたら」
「とりあえず
 人を呼んでくれ、早く」

「あ、ああ、
 わかった!!」

意味は無いかも知れないが、と
水を汲みかけて
トーマは、立ち止まる。

「おい」

振り返る。

「お前」

立ち去ろうとしていた彼が
なんだ、と問いかける。

他の一族には見られない
海一族特有の小麦色の肌。
金の髪。伝統的な服装。

どれをとっても彼は海一族。

けれど、

「お前、誰だ?」

トーマは彼を見たことが無い。

はぁ、と
ため息をついて彼が戻ってくる。

「勘がよいのも
 考え物だ、なっ!!」

瞬間、繰り出された短剣を
すんでの所で避ける。

「あれ?
 意外と出来るタイプ?」
「海一族……じゃない?!
 何が目的だ!?」

構えを取りながら
腰のナイフの柄に触れる。

「心外だな。
 ちゃんと海一族だよ」
「え?」

背後からの衝撃に
トーマは倒れ込む。

「くっ!!」

「正確には、
 海一族だった、だけどね」

背中からの声が言う。

「残念。
 もう1人居るんだな」


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「山一族と海一族」26

2017年09月01日 | T.B.1998年

「カオリ」

アキラが云う。

「いつでも帰られるように、支度を」
「はい」

カオリは頷きながらも、首を傾げる。

「隙を見て、海一族の村を出よう」
「兄様」
「トーマには、ことが落ち着いたら礼に来ればいい」
「ええ」

カオリは云われた通り、支度をする。
とは云っても、
彼女の荷物は、たいしてない。

アキラは外の様子を伺う。

海一族の騒ぎは収まらない。

この村で起きたことではない。
が、
山で、あれほどの火が上がっていれば、落ち着いてはいられないのだろう。

おそらく、トーマはしばらくは戻らない。

アキラは待つ。

この場所で留まっていることが、もどかしい。
そして
悪い予感が的中しないか、気が気でならない。

「兄様」

カオリが云う。

「何か、鳴き声が」

アキラも耳を澄ます。

鳥の鳴き声。

「何かが鳴いているわ」

アキラの鳥

では、ない。

「海の方から」
「これは……」
「聞いたことのない、鳥の声だわ」

山にはいない、――海鳥の鳴き声。

「何だろう」

カオリは窓に近付く。

「何か、呼んでいるような声で鳴いているのかしら」
「警戒? いや、威嚇?」

カオリはアキラを見る。
アキラは窓を少し開ける。

海鳥の声が、大きく響く。

「もしや」

「兄様、これは、」

アキラはあたりを見る。

「海のやつら、気付かないのか」

と、

上空にいるアキラの鳥が、大きく鳴く。

「――っっ!!」

アキラは弓を持つ。
窓枠に手をかける。

「カオリはここにいろ!」
「兄様!?」
「もし、トーマが戻ってきたら海へ来い、と!」
「判ったわ!」

そのまま、外へと出る。

海鳥の鳴き声を頼りに、走る。

誰か、
海一族に、この姿を見られるかもしれない。

そう云う場合ではない。

何か

何かが、海一族の村で起きている。

アキラは、焼けるにおいを、感じる。

もちろん山からではなく、海の方向から。
海風に乗って。

アキラは走る。



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