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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」26

2017年09月01日 | T.B.1998年

「カオリ」

アキラが云う。

「いつでも帰られるように、支度を」
「はい」

カオリは頷きながらも、首を傾げる。

「隙を見て、海一族の村を出よう」
「兄様」
「トーマには、ことが落ち着いたら礼に来ればいい」
「ええ」

カオリは云われた通り、支度をする。
とは云っても、
彼女の荷物は、たいしてない。

アキラは外の様子を伺う。

海一族の騒ぎは収まらない。

この村で起きたことではない。
が、
山で、あれほどの火が上がっていれば、落ち着いてはいられないのだろう。

おそらく、トーマはしばらくは戻らない。

アキラは待つ。

この場所で留まっていることが、もどかしい。
そして
悪い予感が的中しないか、気が気でならない。

「兄様」

カオリが云う。

「何か、鳴き声が」

アキラも耳を澄ます。

鳥の鳴き声。

「何かが鳴いているわ」

アキラの鳥

では、ない。

「海の方から」
「これは……」
「聞いたことのない、鳥の声だわ」

山にはいない、――海鳥の鳴き声。

「何だろう」

カオリは窓に近付く。

「何か、呼んでいるような声で鳴いているのかしら」
「警戒? いや、威嚇?」

カオリはアキラを見る。
アキラは窓を少し開ける。

海鳥の声が、大きく響く。

「もしや」

「兄様、これは、」

アキラはあたりを見る。

「海のやつら、気付かないのか」

と、

上空にいるアキラの鳥が、大きく鳴く。

「――っっ!!」

アキラは弓を持つ。
窓枠に手をかける。

「カオリはここにいろ!」
「兄様!?」
「もし、トーマが戻ってきたら海へ来い、と!」
「判ったわ!」

そのまま、外へと出る。

海鳥の鳴き声を頼りに、走る。

誰か、
海一族に、この姿を見られるかもしれない。

そう云う場合ではない。

何か

何かが、海一族の村で起きている。

アキラは、焼けるにおいを、感じる。

もちろん山からではなく、海の方向から。
海風に乗って。

アキラは走る。



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