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「山一族と海一族」29

2017年09月22日 | T.B.1998年

 周りにいる海一族は、動きを止める。

「動くな」

 アキラは弓を構えたまま。

 地に倒れている裏一族は顔を上げ、アキラを見る。

「はっ。どうする、山一族」
「黙れ」
 アキラが云う。
「お前たちが侵入者だと判るのも、時間の問題だ」
「だろうな」
「いったい、お前たちの目的は何だ」

 裏一族が余裕の笑みを浮かべる。

「俺たちの仕事はあぶり出すこと、だからな」
「あぶり出す?」

 アキラはその言葉を繰り返す。

「何の話だ」
「山一族と海一族の生け贄だよ」

 裏一族が云う。

「我々は、その生け贄を手に入れるために来た」
「何?」
「だが、失踪したそうじゃないか」

 アキラは目を見開く。

「なぜ、そのことを」
「我々の情報網を見くびるな」

 アキラは、はっとする。
 トーマを見る。

 トーマにも、この話は聞こえている。

「まさか。この火事は、そのために?」

 裏一族は笑う。

 ふと、視線が動く。

 アキラとトーマは、その視線を追う。

「兄、様っ……!」

「カオリ!?」

 声が響く。

「ほら、出てきた」

 カオリが、そこにいる。

 長らく帰ってこないアキラとトーマを探しに来たのか。

 そして、

 海一族に囲まれたアキラに驚き、この場に飛び出した。

「山一族、の、女の子?」
「仲間がいるのか!?」

 まずい……

 アキラの額に汗が流れる。

 さらに現れた山一族に、海一族が動揺する。

 裏一族が笑う。

「カオリ!!」

 アキラが叫ぶ。

「逃げろ!!」
「え?」

 と、

 はじめにアキラの矢を受け、倒れていた裏一族が
 突然、動く。

 カオリの方へ。

「――っ!?」

 一瞬のこと。

 裏一族はカオリを抱き上げ、走り去る。

「待て!」
「カオリ!!」

「油断したな!」

「!!?」

 短刀。

 アキラは反射的に、それを避ける。

「アキラ!!」

 トーマが裏一族を取り押さえる。

「おい、動くな!!」
「くっ……、まあ、いい」
「……カオリは」

 アキラはあたりを見る。

 が、その姿はもうない。



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