TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」1

2015年05月01日 | T.B.1998年

 彼は、石を並べる。

 さまざまな、大きさと色。

 周りには、彼のほかに、ふたり。
 この場所へは、限られた者しか入れない。

 彼らは、その、限られた
 力を持つ、者。

 彼は石を並べ続ける。

 それは、何かの法則に従っているのだろうか。

 ある程度、進むと、残りのふたりも、それぞれに石を取り出す。
 同じように、石を並べる。

「よろしいでしょうか」

 さまざまな石が、そこに並ぶ。

 彼は、ふたりを見る。

 けれども、明かりはわずか。
 表情を見ることは出来ない。

 代わりに、そのふたりは、手を合わせる。

 確認、の意。

 彼は頷く。

「では、」

 彼らは目を閉じる。
 手を合わせる。

「我が一族の未来のため」

 彼が云う。

「占術を行います」

 と

 並んでいたひとつの石が、転がる。

 瞬間。

 大きな音を立てて、石が飛び散る。

 彼らの後方へ。

 断続的な音。
 石が、飛ぶ。

 やがて

 中央に、わずかな石を残し、音が止む。

「……どうでしょうか」
「今回、我が一族からの生け贄、は」

 彼は、目を開く。
 石を、確認する。

「どうでしょうか」
「今回の生け贄は、誰に?」

 彼は目を細める。

 残された石を、見る。

 彼は、首を振る。

「今回、の、山一族からの生け贄は……、」
「生け贄は?」

 彼は、――ひとりの少女の名を告げる。

 その石が、示す通り。

「……さようでございすか」

 彼の言葉に、ふたりは頷く。

「異存はありますまい」
「異存? 異存が申せるのであれば、占術は不要ですな」
「確かに」
 ふたりは笑う。

 彼は、ただ、石を見つめる。

「では、皆への報告は、族長様を通し、いつものように」
「了承いたしました」

 ふたりは立ち上がる。

 立ち去る音。

 石を見つめていた彼は、顔を上げる。

 もはや、そこには、誰もいなかった。

 彼は、残っている石を、掴む。
 それを、壁へ投げつける。



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