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「辰樹と天樹」1

2015年05月15日 | T.B.2016年

「おお。いい天気!」

 辰樹(たつき)は、窓から空を見る。

 天気はいい。

 そして、

 いい感じで、お天道様も高い。

「遅刻だ!」

 うんうん、と、辰樹は頷いて、支度をする。
 家族にあいさつをし、いつもの集合場所へと向かう。

 市場などが集中する場所とは、反対方向。
 人は、ほとんどいない。
 草むらを抜け、畦道を歩く。

 東一族の辰樹は、

 毎日、課業や鍛錬をこなす。
 彼は能力を見込まれているので、特殊な務め、も、行う。
 時々、上の目を盗んでは、同じ年頃の子と遊びへ逃げ出す。
 時々、家の手伝い。

 さあ。
 今日は逃げ出す機会があるのか。

 確か、今日は務めがない。

 務めは、東一族に関わる、重要な仕事だ。
 それは、辰樹も判っている。
 さすがに、ふざけるわけにはいかない。

 その、務めがない。
 つまり、今日は何をやってもいい日、と云うことだ。

 うんうん、と、辰樹は頷く。

「おーい!」

 相方の姿を見つけ、辰樹は手を上げる。

「すまん、遅れた!」
「うん。いつものことだから」

 判ってます。

 相方も手を上げ、あいさつを返す。

「えーっと、今日の務めは」
「ないんだよな!」
「そうだね」
「なら、」
「解散してもいい?」
「何で!?」

 相方の言葉に驚いて、辰樹は、手が出る。

 別に、堅いやつ、とは、思わないけれど
 ちょっと付き合いが悪い相方。

 務めを果たすために、辰樹がはじめて組んだ相方だ。

 普通
 務めを果たすのに組む人数は、三人。
 けれども
 この相方と組むときは、ふたりだけ。
 ひとり、足りない状態。

 辰樹は、務めによって、組む相方も変わるが、
 この相方は、どうも、辰樹としか組んだことがないらしい。

 ちなみに、辰樹のいっこ上。

「そうかそうか。そんなだから、俺としか」
 辰樹は、ひとりで納得する。
「何の話?」
「だから俺としか、て、話」
「……単語が足りなすぎて、よく判らないや」

 でも、能力は間違いない相方。
 務めでは、何度も、辰樹は助けられている。

「今日のお天道様日和を見ろ!」
 辰樹は、空を指差す。
「お天道様日和……」
「ほら、北とかに遊びに行けちゃう日和だろ!」
「行けちゃわない」

 相方は、手を上げる。
 さようなら、の意。

「じゃあ、次の務め日に」
「えっ、ちょっと!」

 と、そこで、辰樹ははっとする。

「ちょっと待て!」
「何?」

 辰樹は耳を澄ます。

「何か鳴いてる」
「鳴いている?」

 相方も耳を澄ます。

 何かの鳴き声。

 まだ、幼いであろう、生き物の鳴き声。



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