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「タロウとマジダ」湖編 3

2015年05月26日 | T.B.2001年

2人は舟上でお茶を飲む。
おやつは南一族特産の
小豆で餅米を包んだ物だ。

「うん、楽しかった。また来よう」

楽しかったのならば何より。
それにマジダの新しい遊び場が出来たようだ。

「マジダ、舟は1人で使っちゃダメだよ」
「分かっている。
 次もちゃんとタロウに声かけるから!!」

そうか、次回も巻き込まれるのか、と
タロウは苦笑する。

彼は水筒のお茶を差し出しながら問いかける。

「ねぇマジダ、
 もしかしたら、化け物はまた暴れるかも知れないよ」

なぜなら、まだ
一族間の争いは終わった訳じゃない。
化け物はまた全ての敵になるのかもしれない。

「それは寝起きに化け物も大変ね」

また、みんなのために頑張らないといけない。

「それならもう少し眠っていた方が
 幸せなんじゃないかな」

静かに1人。
誰にも会わない場所で。

「そうかな?
 絶対に起きていた方が楽しいのに」

うーん、とマジダは考える。

「じゃあ、
 かわいく暴れたらいいじゃない。」

諍いなんて一族間だけじゃなくて
同じ村の中でも起こったりするものだから。

だったら。

「ちょっとだけ、違うことに目を向けて。
 少しだけ考え直す時間を作るぐらいの
 小さないたずらをしたらいいのよ」

「ふーん」

「それでもどうしようもないときは
 私の手下達でどうにかするわ!!」

「手下ぁ?」

「1号、2号はウチの弟たちね!!
 あとは、戦隊物としては女の子と
 マスコットキャラクターも欲しいところだわ」

おねぇちゃん怖い。

「私が司令官で、
 タロウは参謀として雇って上げるわ!!」

「光栄です」

「まだまだ、長期戦になりそうね
 ―――キナリ」

「おや」

タロウは少し間を開けて答える。

「初めて呼んだね、俺の名前」
「どう、新鮮な感じ?」

うーん、と言いながらも、
タロウはあっさりと答える。

「不思議な感じだ。
 マジダにはキナリじゃなくて
 タロウと呼ばれたいんだな、俺は」

もう、キナリはタロウになってしまっている。

「最初に君が俺に言っただろう。
 似合わない仕事をしている、と」

すでに職人が居るのに、その仕事を選んだのも
訪れる人が少ない様に。
なるべく人と関わらない様に。

でも全部変わってしまった。
マジダが新しい名前をくれた
その名前は村中に広まった。
仕事の依頼で尋ねてくる人も増えた。

「なんだ、もう
 知らないうちに居なくなることも出来ないな」
「なぁに、何か言った?」
「いいや」

タロウは狭い舟の上で、片膝を立てて
掌を顔の前で合わせる。
彼なりの最敬礼だ。

「マジダ司令官の、仰せのままに」

今日は帰りにお店に寄ろう。
これからも通って来るであろう彼女と
また増えていく来客達の為に
新しいお茶の葉を買って帰るのもいいかもしれない。

タロウは舟を漕ぎ出す。
目指すは南一族の岸辺。

南一族のいつもと少し違う
でもいつも通りの1日。



いつもの南一族の村にて

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