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「タロウとマジダ」湖編 2

2015年05月19日 | T.B.2001年

「あぁ、本当だ」

タロウは舟上から声をあげる。

南一族の岸辺から、慣れない舟でどれくらい来ただろうか
大人が10歩も歩けば端から端にたどり着いてしまうような
小さな島がそこにある。

「ね、ちゃんとあったでしょう。
 おばあちゃんが言う事は本当なんだから」

マジダは嬉しそうに言う。
彼女自身も島を見たのは初めてなのだろう。

タロウにはこの島が本当に湖の中心にあるのかは分からない。
長く漕いだ気もするが、
まだ、南一族の岸辺からはそれほど離れていないのかもしれない。

「釣りをする時に、
 こういう所あるといいよね」

タロウは魚を食べないので釣りもしない。
言ってみただけだ。

「そういう呑気な所じゃないのよ、ここは!!」

マジダは言う。

「え?そういえば、なんなのここ?
 神聖な土地だったりするの?」

よくよく考えれば、タロウはそこの所詳しく聞いていない。

ただ、ここは少し夢があるな、と思う。
小さな子供にとってはこういう島があるというだけで
秘密の無人島の様に感じるだろうし、

もし、各一族間の諍いがなければ
ここは程よい貿易の要にもなるだろう。

「昔、昔にこの湖に大きな化け物が居たらしいのよ」
「あぁ、御伽話だね。俺も小さい頃、聞いたことがある」
「その化け物がいた頃は
 みんな、その敵と戦うために協力していたんだって」

北も、南も、
今は対立している西と東の一族も。

でもタロウは知っている。
そんなのは結局作り話だし。
本当だとしても、その物語の結末は一族によって違う。

止めを刺した英雄こそ
わが一族の者だった。

結局はどこも、優秀な一族は自分たちである。
そう言いたいだけの話だ。

「それが、ここに、
 封印されている、と!!」
「そんな壮大な話が!!」

この、小さな島に。

「我こそ封印を解く者なりー!!」

どーん、と
凄い台詞を放ちながら、
マジダがその島に降り立つ。

「えぇえ。封印解いちゃうの?」

その、伝説の化け物出しちゃう気だ。
さすがマジダ。

「きっとね、その化け物は
 みんなが協力をするためにあえて悪者になった
本当はいいやつなのよ」

「俺、マジダのそういう考え方嫌いじゃないよ」
「なによ、好きって言いなさいよ」

「いや、よく考えてマジダ。
 君は九歳。俺は二十歳。
 発言に気をつけねば俺はしょっぴかれる!!」

タロウは大事なところを念押しした。

「で、封印はどう解くつもり?」

そこには、ただ、何も無いただの島だ。
祠があったり、封印の石碑とかあれば話は別だが。

「じゃーん」

マジダは自分の小刀を取り出す。
以前タロウが磨いだものだ。

と同時にタロウは思い出す。
日頃のお礼として、模様を刻んで上げたのだ。
その時にマジダは言っていた。

【ふむふむ。いいわね、使い込むと封印とか解けそう】

「これのことかーーーー!!!」

慌てるタロウの横で
マジダはなにやら不思議な口上を唱えている。

封印されしうんぬんかんぬん。
その真の姿をほにゃらら。

あぁ、子ども向けの本にでも書いてある呪文かな。

普段のタロウならばそこで
温かく見守るのだが、今日は少し違う。

これ、封印とか解ける代物じゃないけどどうしよう、だ。
そもそも、おとぎ話はあくまでおとぎ話だし、
マジダは信じちゃうと本当に行動に移す子だから
マジダのおばあちゃんそこら辺考えて話してあげてーー!!

「はぁーーーーー!!」

そんなタロウをよそに、
マジダは小刀を地面に突きつける。

刃こぼれしちゃう!!!

「…………」
「…………」

ぽちゃんと、湖で魚が跳ねる。

「…………」
「…………」

まぁ、封印とか解けませんよこれ。

マジダはゆっくりと後ろを振り向く。
なにか盛大な事が起きるのだろうと信じてきた訳で
恐らくここは、封印が解けなかったのは、

「タロウ」

そうなりますよね。

「あーーー、うん」

タロウはゴホンと咳き込む。
おとぎ話だよ。ありもしない話だよ。
マジダは聡い子だから、それぐらい分かってくれるだろう。

でも、聡い子だからこそ、
分かっていても信じたいのかもしれない。

「あー、おほん」

タロウは声を1トーン低く響かせる。

「まだまだ、おぬしの修行が足りぬのじゃ。
 経験を積んで、また出直すが良い!!!}

老師っぽく言ってみた。

ぎゃーずん!!!!



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