「よっ! 天樹(あまき)!」
今日も、にこやかにやってきた辰樹に、天樹は目を細める。
「辰樹、時間」
「おお! 今日も遊べちゃう日和だな!」
「だから、遊べちゃわない」
「ちょっと、お花見でも行ってみるか!」
「行かないよ……」
「今は、花が咲く時期だから、裏道も満開だろうなー!」
辰樹は歩き出す。
「辰樹どこへ!」
「お、花、見ぃー」
「本当に?」
「市場で、だんごを準備済みだ!」
「だんごって」
天樹は、辰樹を追いかける。
東一族の畑が広がる地帯。
今は、黄色の花が一面に咲いている。
空には、花びらが舞っている。
「満開、満開!」
辰樹が云う。
「この時期は、花見に限るな!」
畑地帯の横に、いろんな花の木が並ぶ。
黄色と桜色、そして、白色。
先を行く辰樹は、ふと、振り返る。
見ると、天樹は、ずいぶんと後ろで立ち止まっている。
「何だ」
辰樹は、天樹の元へ引き返す。
天樹の視線の先を見る。
天樹は、木を見上げている。
「何見てる? 辛夷? 白木蓮?」
「あれは白木蓮だよ」
辰樹が訊く。
「お前、花が好きなのか?」
辰樹は、首を傾げる。
「俺じゃなくて、」
「あ。ひょっとして、母親?」
天樹が何か云う前に、辰樹が云っている。
「うちの母親も、花が好きだからな!」
「うん、まあ。……そう」
「よかれと思って花なんか持っていったら、あんた何をしでかしたの! となる」
謝罪扱い。
「それは、判るような気がする」
「そう云うなよー」
うんうん、と、辰樹が頷く。
「天樹の母ちゃんはどうだ?」
「うちの話はいいよ」
「何だ、内緒か、兄さん!」
「やめろって」
「でも、花が好きなんだろ」
辰樹が手を叩く。
「そうだ! 俺が、あの白い花をとってやるよ!」
「え?」
「天樹の母ちゃんに、持って行きな!」
「いや、」
「任せとけって!」
「自分でとるから、いいよ」
「なら、一緒に登るか!」
「……うん」
辰樹と天樹は、木を登る。
旧株で、かなりの高木。
「触れると花が落ちるから気を付けろ、辰樹」
「はいよ」
「あと、お前は背が高いから、あまり登るな」
辰樹は、天樹を見て、にやりとする。
どんどん、木を登る。
ある程度登ると、上手いこと腰掛ける。
「絶景かなー!」
辰樹は声を上げる。
畑一帯と、市場や居住区もわずかに見える。
「うーん。この季節ならではの、景色!」
「そうだね」
「あ。俺ん家が見える」
「目がいいな、お前」
「お前の家はどこだ?」
「うちの話はいいよ」
しばらく、辰樹と天樹は景色を眺める。
風が吹き、花びらが舞う。
と
何かの音とにおいがして、天樹は辰樹を見る。
辰樹が、だんごをほおばっている。
「……辰樹」
「うまいー!」
辰樹は、仕合わせそうな顔をする。
自分で用意しただんごを、辰樹は全部、平らげていた。
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