TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「タロウとマジダ」湖編 1

2015年05月12日 | T.B.2001年

「湖の中心には、小さな島があるらしいわ」

唐突にマジダが言う。

「……初めて聞くなぁ、そんな話」
「おばあちゃんが言っていたのよ」

タロウ達の村は湖に面している。
とても大きな湖で、
それを囲んで四つの一族が暮らしている。

彼らは湖の南に暮らす、南一族。そのままだ。

生活に必要な水は全てそこからという彼らにとって
湖は生活に無くてはならない大切な物。

「でも、見渡す限り見えないよね」
「舟でずっと、
 ずーっと漕いでいかないと見つけられないんだって」
「ふーん」

タロウは作業を続けながら
話半分でその会話を続ける。

「ねぇ、魚を捕るときに使う舟があるでしょう」
「そうだね、俺は持っていないけど」
「ウチにあるのよ」
「うんうん。
 でも、危ないからマジダ1人で乗ってはいけないよ」
「分かっているわよ。そんなことは」

「……へぇ、それで」

その辺りで、何だかイヤな予感がして
タロウはマジダに背を向け始める。

「一緒に行くのよ、タロウ!!!」
「イヤだよ!!」

ふふーん、と
マジダは余裕の表情だ。

「甘い!!甘いわよ、タロウ!!」
「……くっ、マジダは力を溜めている!!」

どうやらマジダにはタロウを動かす
最終奥義があるらしい。

「この前、我が家にご招待した時に
 村を盛大に横断したのは覚えているわよね」
「……??」

確かに、直線で行けば早い道を通らず
村の中心を通って行った。
あれも策略だったというのか。

「沢山の人が私と一緒に歩くタロウを見ていてよ!!」
「はっ!!?」
「ここで私が、実はあれは連れ回されてました、と
 一言叫ぶだけで」
「やめてー!!!!!
 この話から読んだ人にも
 誤解を与える様な発言はやめてー!!!」

タロウは観念した。

「大丈夫よ、
 このネタでお願いするのは今回だけだから」

んんんん。

「ねぇ、マジダ。
 このネタでってどういう事。
 他にあるの?ねえ?!」
「気にしない、気にしないー♪」

それより、とマジダは言う。

「タロウ、泳げるのでしょう?」
「泳げる…けど…湖で泳いだ事は無いな。
 マジダは?」
「それなら大丈夫よ。
 私はいつも泳いでいるもの」

地元の子、たくましい。

外は良い天気だ。
相変わらず、仕事はもてあます時間の方が多い。
お茶とおやつを持って、少し出かけてみるのも良いのかもしれない。
湖に出るのならば、ちょっとした冒険だ。

それじゃあ。

「出発しますか」



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