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「タロウとマジダとジロウ」7

2017年03月28日 | T.B.2001年
「タロウ」
「なんだ、先生まで俺の事タロウですか」
「いいじゃないか、
 キナリより似合っている」

そうだけれども、と
タロウは苦笑する。

南一族の村。
医師の定期健診を終えて
タロウは立ち上がる。

「うんうん。異常なし。
 元気が一番だな」

「それで、何か」

尋ねるタロウに、
南一族の医師は言う。

「大した事じゃないんだけどね、
 ちょっとお知らせ」

「今、西一族のお医者さんが来ているよ。
 研修旅行?
 なんかそんな感じ」
「へぇ」
「興味があるなら君も会ってみる?」
「いいえ。
 特に用事は無いです」
「だよねぇ」

会うわけ無いか。
そっか、そっか、と
医師は面白そうに呟く。

「じゃあ、会わないように
 気をつけて」

「先生」
「うん?」
「俺、先生達に助けてもらった事。
 本当に感謝しています」

診察室には医師とタロウ。
2人しか居ない。

「それじゃあ、
 助かった命は大事にしないと」

飄々とした医師は、
その調子のまま言う。

「もう、キナリは棄てろ、タロウ」


「棄てろ、か」

棄てるも何も、とタロウは思う。
タロウはこの
南一族の医師にはとても世話になった。

それだけじゃない、
ユウジや村人達。
ジロウやーーーマジダ。

今のタロウを作っている人達。

キナリという人は
もう、どこかに置いてきたような気もする。

「ねぇ、君、
 ……南一族の人かな?」

そう考えている途中、
タロウはふと呼び止められる。

「見れば分かるでしょう」

タロウは頬の入れ墨を指さす。
南一族の証。

「それじゃあ良かった。
 少し道を聞きたいのだけど」

白色系の髪。
この世界には白色の一族の方が多いが
格好で、西一族だろうか、と
タロウは判断する。

西一族の医師。

あんな話をした直後に
ばったり出会うとは
自分もタイミングが悪い。

「馬車乗り場に行きたいんだ」

狩りの一族と言う割には
目の前の人物から
そういう雰囲気は見られない。

医師だからだろうか。

「それは、曲がり角を間違えてます。
 戻って2つ先で左に」

「医師様は」
「あぁ、違うよ。
 俺は見習いなんだ。
 先生は足が悪くて、
 替わりに俺が来ている」

「見習い」

「そう、まだ半人前さ」

「まぁ、それはさておき
 道が分かったのは助かった」

見習いだと言う医師は
手を差し出す。

「俺はミノリ、君は?」

タロウは答えず相手の様子を見る。
中々答えないタロウに
あれ?こういうの嫌なタイプ?と
尋ねてくる。

いつか、どこかで、
彼を見たことがあるような気がする。

そう思うが、
それをはっきりと思い出せない。

分からないまま、タロウは答える。
タロウではない、彼の名を。

「キナリ」

「キナリ、…・・・キナリねぇ、
 ふうん」

西一族の医師は、
首を捻りながら言う。


「樹成、かな、それとも」



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